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■4 獄寺と2人きりの生活が長くなるにつれて、ツナは妄想に悩まされるようになった。 それは、獄寺が病気でツナを監禁しているのではなくて、事故などで家族を失い不自由の身となったツナを、獄寺が監禁と称して世話をしているという物だった。 監禁の理由はちょくちょく入れ替わり、大災害であったり、病原菌の蔓延だったり、ボンゴレに敵対するマフィアからの追っ手をかわすためだったり、はたまた異星人の襲来という、胡散臭いB級TV番組のネタのような物もあった。 それらのことを冗談交じりに獄寺に伝えたところ獄寺は絶句し、 「10代目はお優しいから……オレの罪を許そうと作り話を考えてくださったんですね。 すみません……オレが、一人で死ぬ勇気がないせいで―― 10代目をこんな不自由な世界に閉じ込めてしまって」 と、泣きそうな声になるので、ツナはいつも思いつきを話したことを後悔しつつ、けれど、自分の妄想がどれでもいいから本当だったらいいのにとも思うのだった。 ツナにとってはどんな理由であろうと、獄寺がいづれ死んでしまうこの現実よりもマシだと思えたので。 「……ねぇ獄寺君」 甘える声のあとほんの少し唇を尖らせれば、獄寺はツナが望む物をちゃんとくれた。 重ねられた唇は少し乾いていたが柔らかく、軽く何度も啄まれる感触が心地よい。 唇と唇がくっついている時間が長くなってから閉じていた唇に隙間を作ると、丁度いいタイミングで舌を入れられる。 「ん…」 絡まってくる舌の情熱にツナは背筋に甘い痺れを感じた。 溢れた互いの唾液が混ざり合い音を立てて啜られる。ツナは自分の取り分を強請るかのように吸い付いてのどを鳴らした。 獄寺とのキスは煙草とコーヒーの味がして苦いのだけれど、その味に違和感を感じて飲み込むのにためらったのは最初の頃ぐらいで、今ではツナが感じられる獄寺の大事な一部分だ。 「は……あ…」 飲みきれず口元からのどへ伝った涎を獄寺の熱い舌が舐め取っていく。 口付けだけで灯っていた欲望の炎がチラチラと飛び火して身体全体に熱を産ませていくようだ。 獄寺は再び軽い口付けをツナの頬や鼻や額におしげなくいくつも落とし、両の手で髪を梳き頭皮や耳の後ろに刺激を送ってくる。 力の加減によってはマッサージかとも思える動きだったが、ツナにはセックスの前の愛撫としか思えなかった。 獄寺がその身に宿した欲情に戸惑っている時、ツナには指先から獄寺の感情が流れてきているのではと思うことがある。 それとも単にこれは自分が望んでいることなのだろうか。 「……ご、くでらくん…、しようよ……」 何度となくその関係を持っていても、自分から誘うことは未だに恥ずかしい。 しかし、ツナが自分からは動けない現状になってからは、ツナが望まない限り獄寺が己の欲望を満たすために触れてこようとしないのだから仕方がない。 「……昨日も、しましたよ」 囁かれた獄寺の声にある密かな戸惑いの色。 目が見えなくともツナには見える。 獄寺の困った、それでいて嬉しそうな、どちらともつかない表情が。 「10代目のお身体に障りますから…」 だからダメなのだとは言わず、獄寺はツナの額の生えぎわに唇を付ける。 「う、ん……だから、口だけで……オレが獄寺君を気持ちよくしてあげる」 「そんなこと、しなくていいんです」 「どうして? いつも獄寺君はオレにしてくれるのに。オレだってしたいよ。 ……獄寺君を気持ちよくしたい」 「10代目のお気持ちは嬉しいです。でも、ダメです」 「させてよ。お願い」 その行為をツナが施すことは初めてではないというのに、獄寺は頑なに拒んだ。 「……オレが動けないから気持ちよくない?」 「違います!」 自嘲気味なツナの言葉に獄寺は声を荒げ、すぐにすみませんと小さく呟いた。 ギシリと音がして、ツナは抱きしめられる。 ベッドに乗り上げるようにして獄寺が覆い被さっているのだと気配では知れたが、ツナの身体には獄寺の重みもよく分からない。 ただ何度も獄寺の唇と大きな手の感触を顔や頭に感じた。 「オレは最低です。あなたを、誰よりも大切にしたいのに……あなたを汚したくないのに…」 「獄寺君ここにいて!」 涙声の獄寺の気配が離れていく前にツナは叫んだ。 獄寺が自分の知らない所で泣くくらいなら、この場ですべてを分け与えて欲しい。 泣き顔の何が恥ずかしいと言うのだろう。 そもそもツナは獄寺の顔を見ることが出来ないのだ。 おまけにツナは泣き顔所か食事も入浴も、排泄さえも獄寺の手を借りなくては満足に出来ない。 獄寺がいなくては生きてはいけないのだ。 そんな自分と比べれば、自由に歩けて見ることも読むことも抱きしめることも容易い獄寺が己の求めを拒んで逃げるなど、許せなかった。 「君はオレのものだろう?」 「もちろんですじゅうだいめ」 ぐすりと鼻を鳴らしながらも、獄寺は即答した。 「それなら、ここにいて。オレのいない所で泣いたりしないで。 君が悲しいならオレに甘えて思う存分泣けばいい。 君はオレのもので、オレは君のものなんだから」 「……はい。すいません」 獄寺の鼻を啜る音は止まらない。 ツナは獄寺を抱きしめたかった。 涙で濡れたであろう頬にすり寄せてなんの遠慮も恐れも不要なのだと。 「獄寺君はオレにもっと甘えていいんだよ。 オレは寝てばっかで大したことは出来ないけど、君がしたいことは全部叶えてあげたいんだ。 君がしたいことはオレがしたいことでもあるんだから。 ……だから、しようよ」 「……はい……ありがとうございますじゅうだいめ」 半ば自棄のような、それでいてやはり遠慮と優しさを感じさせる口付けが施され、ツナは素直に息を乱し、ただ喘いだ。 獄寺に監禁されてからどれ程の日にちが過ぎているのか、ツナにはもう分からない。 途中から日にちを数えることをしなくなったせいだ。 うたた寝を繰り返し目覚めても闇の中では正確な時間の経過など分かるはずがなかったし、なにより、日にちを数えるとそれだけ獄寺の最後の日へと着実に近づいていくのだと恐ろしかった。 << >> 戻 |
■20080606up |