誰よりも君を愛す



■6

 放課後、獄寺は委員会の集まりに行ってしまった綱吉の帰りを教室で待っていた。獄寺が目を離した隙に綱吉が消えてしまい、また隣の少女に聞くと「委員会じゃない?」と教えられた。
 入学して間もなく、綱吉は『絶対一回はやらなきゃいけないんなら早く終わらせたいから』と、自ら進んで美化委員に立候補していた。『委員会と掃除道具の点検補充するぐらいで簡単だから獄寺君も次やるといいよ』と言われた事を思い出す。
 綱吉の机に鞄が残っているので間違いなくそのうち帰ってくるとは分かるのだが、どうにも落ち着かない。美化委員が委員会で使う教室を聞き出した獄寺は、少しでも側にいたい一心でその教室まで迎えに行った。
 階段を上がり廊下を歩いていると、目当ての教室から何人もの生徒が出てきた。丁度委員会が終わったらしい。
 獄寺は何気なく身近な教室に目をやり、誰もいない事を確認してそこに入った。委員会があった教室は棟の突き当たりで、綱吉が自分のクラスに戻るにはさっき獄寺が上がってきた階段を使うのが一番近い。つまりここで待ち伏せていれば、綱吉は必ず目の前の廊下を歩くのだ。
 どうにかして綱吉と二人きりになりたいと願う獄寺の思いつきだったが、綱吉は罠にかかった獲物よろしくやって来た。しかも綱吉が最後に教室を出たらしく、綱吉の後ろを歩く者は誰もいない。
 獄寺は前もって開けておいた後ろの戸口から気配を殺して近づくと、片手で綱吉の口を塞ぎ瞬間固まった体を難なく教室に引き込んだ。
「んっ! んぅ――?」
 口を押さえられ叫べないものの、綱吉は魔手から逃れようとじたばた暴れる。獄寺は綱吉の体が物にぶつかって怪我をしないようにかばいながら移動すると、背後になった戸口を足で器用に閉めた。
「オレです10代目。乱暴なまねしてすみません」
 名乗らずとも抱きしめたまま囁くと、途端に腕の中の体は緊張を解いた。不自由な体勢ながら首を巡らして顔を確認しようとするので、獄寺は自分からも綱吉に見えやすいよう上背をかがめる。
「んんううぅんんぅうんんん――」
 口を塞がれているためちゃんとした言葉にならないが、驚きに見開かれた目が非難の色をしている。獄寺はすみませんと謝罪を繰り返したが、口を塞いだ手も抱きしめた腕も緩めなかった。
「こうでもしないと10代目とちゃんと話し出来ないって言うか、あの、昨日はホントにすみませんでした。ちょっと事情があって詳しくは言えないんですが、明後日になったらきちんと説明します。だから今のところは許して下さい。オレ、10代目に避けられたり逃げられたりしたら、オレが悪いんだって分かってても死にたくなります。あなたに嫌われて必要ないって態度に出られたら、オレ、情けないけどどうしたらいいか分からなくなるんです。オレにはあなたが全てで、あなたが存在するから生きてると思ってるんです。だから、だから――こんな、言い訳がましい事しか言えない男、がっかりですよね。10代目ならこの先オレなんかよりもっとふさわしい相手が現れるでしょうけどオレは、」
「んんんんう――!」
 綱吉が顔を真っ赤にして動かせる方の手で獄寺の体をバシバシ叩く。慌てて口を塞いでいた手を放すと、綱吉はぜいぜい息を切らし涙目でキッと睨んできた。
「……もう怒ってないから」
「……え」
「そこまで下手に出られたら、オレ謝りにくいじゃん。昨日は……学校でやな事があって、それで獄寺君に当たり散らしてて、つい言い過ぎたって言うか……。死にたくなるなんて言わないでよ。獄寺君がいなくなっちゃったらオレ、悲しくて死ぬ」
「10代目……」
 綱吉の眼差しは睨みつけるようにきついが目元は赤く染まっていて、照れ隠しなのだと分かるとじわじわ胸に暖かい物が溢れてくる。
「獄寺君こそオレに怒ってたんじゃないの?」
「そんな事あるわけ無いですよ!」
「だって……メール」
「メール?」
「……一時間目、自習になったから、オレ獄寺君に帰っておいでよってメールしたのに、獄寺君帰ってこないしメールの返事もないから、朝オレが冷たくしたから怒ってるんだと思ったら、なんか、素直に謝るのが悔しくなって…」
「あ、あのすみません10代目。オレ携帯家に忘れてきたんです」
「うそ!」
「朝起きたらすごい時間だったもんでついうっかり……」
 途端に綱吉は真っ赤になって俯いた。獄寺は熟れた耳朶にキスしたい衝動をどうにか堪える。
「なんだ……オレバカみたい」
「そんな事ないっスよ! 携帯忘れてくるオレが間抜け過ぎるんです! ……あの、オレもサボって屋上にいた時10代目にメールしようとして持って来てない事に気付いたんです。だから、あの時10代目がオレと同じ気持ちだったって分かった上に、10代目がオレにわざわざメール下さってたなんてすごく嬉しいです! 帰ったらソッコーで読みます! 大事に保存しときます!」
 感極まって、獄寺は腕の中の身体をぎゅうぎゅう抱きしめた。綱吉の身体は獄寺に包まれるべくしての大きさなのではと思うほどにピッタリだ。程よく筋肉が付いているのに獄寺を柔らかく受け止めてくれる身体。しかも首の後ろの辺りからいい匂いがする。綱吉の癖毛に頬ずりしながらバレないように匂いを嗅ぐと、身体の隅々までが甘く痺れた。
 久しぶりの感覚に胸が高鳴る。綱吉の姿を見つけた時からとっくに速まっていた鼓動が、綱吉を抱きしめて、綱吉がそれを許してくれていると思うとますます激しくなる。触れ合った部分から熱が生まれて息が荒くならないよう気をつけると、深いため息になった。
「そ…んな、大げさなんだから。……帰って読んだら消しといてね」
 嫌ですと軽口を吐息で返しながら、獄寺は気付いていた。綱吉の鼓動も獄寺と同じくらい速くて、急に生まれた熱を持て余している事を。
「10代目…」
「あっ……っ」
 我慢できなくなって可愛らしい耳の裏側へ口付ける。強く吸って跡を付けると腕の中の身体がひくりと震えた。
「獄寺く…」
 咎める言葉を聞きたくなくて、振り返った綱吉の唇に同じ物を重ねる。綱吉の目が見開かれ一瞬体が強ばった。祈る気持ちで舌先を唇の隙間に伝わせると、綱吉は目を閉じて身を任せてくれた。
「ん……」
 恋人が不自由な体勢ながら目元を赤く染めてキスに応えてくれる。しかも学校の教室でだ。獄寺は初めてのシュチュエーションも手伝って一気に燃え滾った。
『ケンカにはスキンシップが一番だよ〜。抱きしめてちゅっとキスしてごめんねって言えば、きっと沢田ちゃんもすぐ許してくれるよ〜』
 急にロンシャンの言葉を思い出し、不本意ながら実践してしまった状況に慌てて、決してロンシャンの言葉を真に受けた訳じゃないと己に言い聞かせる。人に言われなくとも獄寺は常に綱吉に触れたいし、キスしたくてたまらないのだから。
「……は…っ」
 息継ぎに綱吉の唇が離される。綱吉の顔は朱に染まり獄寺を見上げる瞳は潤んで艶っぽかった。
「好きです」
 自然に告げていた。
「あなたを誰よりも愛しています」
 獄寺は綱吉が何か言いかけて唇を開いた所を狙って、貪るように再び唇を重ねた。
 綱吉は無理な姿勢のせいか足を小刻みに震わせたあと体重を預けてきた。獄寺はゆっくり綱吉の身体ごと床に膝をつく。
 触れ合った部分の身体が酷く熱かった。初夏とはいえ、校内は独特のひんやりとした涼感があるというのに、興奮の汗で半袖の下に着込んだTシャツが張り付き余計に暑苦しい。
 獄寺は綱吉の唇や口内を好きなだけ舐めたり啄んだりしながら、無遠慮に両手で身体をなで回していた。こんなに密着してキスをするのは久しぶりな上に、とにかく綱吉に受け入れられている状況が嬉しくて、いつもなら遠慮してしまうラインをとっくに越えてしまっていた。
 けれど、現状に酔いしれている間もまるで自分が妄想の中にいるのではないかという疑いが消せなくて、冷静な部分が油断無く綱吉の態度や教室の外の様子を伺ってしまう。
 もっともそれくらいの心配りがあってしかるべきなのだろう。二人の関係は万が一にも知られてはいけないのだから。
「だ、だめ…だよ」
 獄寺の手がなで回すだけでなく、綱吉の胸の尖りを指の腹で潰したり摘み上げたりするようになると、さすがに綱吉は身を捩り不埒な手を止めようとする。しかし、空いている方の手で反応し始めた股間を包み込み刺激を与え首筋に唇を寄せると、綱吉は声が漏れないように口元を押さえ、むしろもっと弄って欲しいと言わんばかりに獄寺の手へ性器を押しつけてきた。
 いざ始めてしまえば綱吉の身体がどれだけ敏感で感じやすいか、獄寺は知っている。少しだけ、10代目を気持ちよくするだけだからと言い訳しながら手の中への刺激を強くする。
「んっ、ふ…」
 綱吉は身を震わせながら目をきつく閉じて声を堪える。うなじまで朱に染めた身を恥じらいながらも、獄寺の愛撫を貪欲に得ようとする素直な身体が愛おしい。
 ムラムラと劣情が込み上げてきて股間が昂ぶる。獄寺は我慢が出来ず、側にある綱吉の細い腰を引き寄せ薄い肉の隙間に押しつけた。
「だッ、駄目――だ、って、ば」
 慌てて逃げ出そうと綱吉がもがく。けれど、獄寺は両手であるじの身体を捕まえ離さない。こんな所で最後までするつもりはないし、出来るとも思わない。ただもう少しだけ、恋人との時間を長引かせ綱吉に気持ちよくなって欲しかった。
 なおも逃げようとする綱吉の身体を腕の中に納めておこうとした隙に、あるじの身体が離れた。慌てて抱きつくとその勢いで膝を立てた不自然な姿で押し倒したような格好になった。
「す、すみません、だいじょうぶです、か」
 とっさに出た声は酷く擦れて上擦っていた。まるでセックスの最中のようでみっともなく浅ましいと思いながらも、のし掛かった身体を離す事が出来ない。むしろその体勢はまるで服さえなければそのものだと思えた。
 その間も獄寺は無意識のうちに綱吉の尻へ自分の欲望を擦りつけていた。想像や妄想の比ではない甘美な刺激をもっと味わいたい。同時にもっと綱吉を快楽の底へ落とし込んでしまいたかった。
 抵抗がないのをいいことに、もどかしく綱吉のベルトを緩め直接性器に手を伸ばす。既に硬く張りつめたそれは先端からぬめりをこぼし、獄寺の硬い指に馴染むと刺激を与える動きをスムーズにした。
 腰を押しつけながら右手の動きを早める。綱吉の身体が痙攣しているかのように細かく震えたかと思うと、激しく反り返った。
「あっ……」
 手のひらに溢れる熱を感じる。綱吉が達した事が分かって獄寺は少したじろいだ。今までの経験による予想ではもう少し時間が掛かるはずだった。最後は自分の口に含んで飲みたいと思っていたしそうする気満々だったので、適当にくつろげた制服が汚れてしまったかもしれない。
 獄寺は右手の中身をこぼさないようにゆっくり抜き取ると、確認のため綱吉の身体を床の上にひっくり返した。片手しか使えないのと体勢的に、綱吉の上体を引き起こすよりその方が簡単なためだ。
 綱吉は抗わなかった。両腕で顔を覆って激しく喘ぐ姿は、開いた口の端や赤いままの首筋が見えるだけなのに壮絶に色っぽい。投げやりに横たわった身体が時々ビクビクと引きつる。そんな風になるまで感じさせられたのが自分だと思うと誇らしい気分になった。ここが教室でなければ獄寺は再び綱吉にのし掛かり、腕の上からいくつも口付けを落として直接胸の蕾に吸い付いていただろう。
 幸い射精時の精液は床に零れたくらいで、制服に付いてはいなかった。獄寺は顔を寄せ下着に付いた体液をきれいに舐め取り、萎えた性器を頬張った。独特の味も感触も愛おしい恋人の物だ。獄寺は深く銜え込み夢中で舐めあげた。吐き出しきれなかった精液の残りを吸い上げて、先端の敏感な部分をしつこく舐め回していると萎えていたそれが芯を持ち始めて嬉しくなる。
「…ご、くでら…くん」
 綱吉に小さな声で呼ばれ名残惜しくも顔を上げると、途端に頬へ衝撃が来た。目の前には赤面し涙目の綱吉が獄寺を殴った後の姿勢で震えている。
「こ、なとこでっ――ダメって、い…のに…」
 綱吉はぐすっと鼻水をすすり、乱れたズボンを引き上げ身繕いも半端な姿で教室を飛び出して行った。
「じゅうだいめっ」
 追いかけようと腰を浮かしかけて、床に零れた体液に呼び止められる。しかも獄寺の右手には綱吉のそれがあり、大変な事をしてしまったと頭は冷めたというのに、熱を閉じ込めたままの身体はすぐに静まりそうになかった。






 結局、獄寺は床に零れた体液を掃除して、下半身が傍目に気付かれない程度に収まるまで待つ事になった。その後トイレの個室に入り、しばらくためらってから萎えきっていない自分の性器に綱吉の精液をなすり付けて扱き、欲望を吐き出した。
 二日間も続けて(家と学校の違いはあれど)トイレで処理する羽目になるとは、我が身の浅ましさや愚かしさに恥じ入ってどこかに隠れたくなる。
 今日もまた、今日は本物の綱吉との接触が生々しかったせいもあるが、処理の間、妄想の中で綱吉を自由にしてしまった。嫌がる綱吉のズボンを下着ごと無理矢理引き下ろし、右手に受け止めた精液で申し訳程度に窄まりを慣らして挿入すれば、最初は嫌だとすすり泣いていた恋人が次第に喘ぎだし、声を殺し羞恥にふるえ獄寺の動きに合わせてくるようになり……。
 どこまでも自分に都合の良い妄想は後ろめたさと同時にとてつもない悦楽を育てた。
 けれど、熱を放出し落ち着くと、どれ程自分が軽率だったか、綱吉に張り手一つで済ませて貰えたのは甘いくらいだと後悔ばかりが湧いてきた。
 いつもなら、綱吉が駄目だと身を離した時点で諦めている。抱きしめてキスだけならまだしも学校の教室であんな事をしてしまうとは、冷静になった今だからこそにしてもその時の自分の気持ちが分からなかった。
 教室に戻った頃には綱吉の姿や鞄はとうに無く、重い足取りであるじの家へ向かうと、奈々に「今日は友達の所に寄るってまだ帰ってないの」と言われた。
 友達。綱吉が突然訪ねても許される気の置けない相手は、男女を問わず何人か考えられる。思わず誰ですかと問いかけようとして言葉を飲み込んだ。そこまで追求すると二人が付き合っている事を知らない奈々に変に思われてしまうだろう。
 今すぐ直接会って謝りたいが、心当たりの家を片っ端から訪ねるのはもはやストーカーだ。
 自分では気付かなかったが、獄寺は相当酷い情けない顔をしていたのだろう。
「もしかして、まだケンカしてるの?」
 奈々に心配そうに聞かれて、獄寺は無理に笑顔を作った。奈々は獄寺にとってあるじの生母であると同時に、幼い頃亡くした母よりも母性を感じ大切にしたいと心から思う存在だった。自分のせいで彼女の笑顔を曇らせたくなかった。
「いえ、お母様が心配なさるような事は何一つありません」さっきよりも自然な笑顔を作り、獄寺は丁寧に別れの挨拶をして沢田家を後にした。







「お帰りなさい!」
 鬱々とした気分で自宅のドアを開けると、気配を察知して出迎えてきたツナに笑顔を向けられた。瞬間、それまでツナの存在をすっかり忘れていた獄寺は目を瞬かせ、たどたどしく只今戻りましたと返事をする。
「今日は遅かったね。お腹空いてない? ピザも余ってるし一緒に頼んだチキンとサラダもあるよ。それとね、勝手に台所借りて悪いなと思ったんだけどオムレツ作ったんだ。ちょっと焦げちゃったし形もちょ……かなりアレだけど、味はそんなに変じゃないから良かったら食べてくれる?」
 そう上目遣いで告げられて、嫌だと言えるはずがない。異世界のあるじが獄寺のためにわざわざ手料理をご馳走してくれるというのだ。
 獄寺はそれまでの鬱々とした気持ちから浮上した。単純だと思うがありがたくツナが用意してくれた夕食を取る事にする。
 食事の前に着替えようと寝室に行き、ベッドのシーツが替えられているのに気が付いた。昨夜は気にしていないと言っていたツナだが、やはり獄寺を気遣っての言葉だったのかもしれない。小さなあるじにまで不自由な思いをさせてしまうとはと、獄寺が再びどんよりとした気分に落ちて行きそうになった時、枕元に忘れていた携帯電話を見つけた。
 瞬間、初めてではない何とも言えない違和感がした。頭の中に幕が張っているような肝心な舞台が見えていないもどかしさはあるのに、何を見ようとしているのかが分からない。
 ひとまず携帯を手に取り二つ折りの本体を開けた。獄寺の携帯は画面を表示させると、初期設定の簡素な画像に時間と着信履歴が現れる。
「……なんだ?」
 履歴に未開封のメール表示が無い。確かめると綱吉のメールは既に開封済みメールボックスへ入っていた。文面は綱吉が言った通り一時間目の授業が自習になった件で、素っ気ないながらもその文面を打ってくれた綱吉の気持ちを思うと胸がじわりと温まる。
 けれど、今はツナに確認を取りたかった。獄寺がリビングに置いたはずの携帯電話が何故寝室にあり、獄寺に送られたメールが獄寺より先に誰かに読まれているのかを。
 着替えを済ませリビングに戻ると、エプロン姿のツナが甲斐甲斐しく料理を並べていた。暖め直したピザやチキンの他にツナが作ったというオムレツと思われる黄色い物体が見えた。確かに謙遜ではないほど凄い形をしている。
 獄寺の視線に気が付いたツナが恥ずかしそうに頬を赤らめ、無理しなくていいからねと念を押した。
 家に帰ったばかりの獄寺ならば、なんて健気でいじらしいと思っただろうツナの仕草や言葉に背筋が冷える。まるでツナの身に得体の知れない薄皮が付いているような錯覚がしたのだ。
 綱吉と同じ異世界のあるじをそんな目で見てしまうだなんて、気のせいにしては不敬すぎると己に言い聞かせる。
 ただの気のせいだと思いながら、獄寺は携帯電話をツナに差し出した。
「これ、寝室にあったんスけど……」
 ツナのにこやかな表情が一瞬引きつった。
「10代目からのメール、……沢田さんが読まれたんスか?」
 ツナの顔に浮かんだ動揺を、獄寺はどこか遠い所から見つめていた。



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□20070602 up