誰よりも君を愛す



■3

「……これ、誰にやられたんスか」
 怒りを押し殺し、どうにか獄寺は問いかけた。
「……ご、くでら…くんが――」
「……そっちの世界のオレが、あなたにこんな事を…?」
「オレ……ごくでらくんと…つきあって、て――ひぐっ」
 ツナの腰が激しく揺れて、部屋に細切れの悲鳴が響いた。後ろを責めるおもちゃがグリグリと回転して弱いところを突かれたらしい。
「た、すけてはやとくんっ…う、ぐっ……るし、い……」
 赤く染まった頬に涙を伝わせながらツナが懇願する。後ろの刺激で勃ち上がった性器は解放を求めているのに、ぴっちり包み込んだ拘束具がそれを阻んでいるのだ。
 獄寺はレザーの表面に指先を伝わせ外す場所を探したが、肝心のジッパーには小さな錠が付いていた。おそらく鍵やコントローラーはツナの世界の獄寺が持っているのだろう。
 食い込んだレザーが白い肌に赤い跡を付けている。ツナの泣きじゃくる声が余計に痛々しくて、獄寺はベルトに常備している小型のナイフを取り出した。二つ折りで刃渡り5センチ程度だが、アイアンザイルも切れる優れ物だ。
 刃先を確かめる獄寺と夕日を反射させたナイフに、ツナの身体が身じろいだ。後ろ手に逃げようとする身体を押さえつける。
「大丈夫です。あなたを傷つけたりしません。少しの間我慢して、なるべく動かないで下さい」
 冷たい刃先を肌に押しつけ、腰に食い込んだ拘束具に当てる。
「いっ…!」
 一瞬更に圧迫されて、ツナが歯を食いしばり震えた。
 ブツリと音を立てて戒めが外れる。反対側を同じように切っても、レザーはツナの身体に張り付いていた。よく見ると後ろのおもちゃは性器が勃ち上がると抜けなくなるようになっていて、性器の拘束具は根元から先端にかけて数カ所留め具が付いていた。全体を取り除くには根元を締め付けている留め具を外さなければならないのだが、当然そこにも錠が付いている。獄寺は小さく舌打ちした。
「い……かせて…っ……は、やとくっ――」
 獄寺が手をこまねいている時間、ツナは堪えきれないとばかりに腰を揺らめかした。幼い身体の淫らな誘いが刺激的すぎて、下半身に熱が集まりぐらりと視界がぶれる。視覚ばかりかツナの身体から得も言われぬ匂いがするのがいけない。獄寺が大好きな綱吉と同じ、囓りついて舐め回したくなる匂いが、甘い吐息と混じって部屋中に満ちていた。
「もうちょっと、だけ、我慢して下さい」
 からからになった口からは上擦った声しか出せなかった。深呼吸してどうにか冷静さを取り戻す。自分の浅ましい欲望よりも、今は早くツナの苦しみを取り除きたかった。
 熱く反り返った性器に手を添えて、ナイフを慎重にレザー下の肌に添える。
「ん、う……あっ…は」
 ひくひくと動く身体にのし掛かりながら、ゆっくり切っ先を突き立てる。
「――!」
 叫び声を飲み込んでツナの身体が大きく戦慄いた。切れ目から力を入れてナイフをスライドさせれば、性器を支えていた手に体液が溢れた。
「は、あっああっあ――…」
 性器の拘束具を外すと、ツナの身体がビクビクと跳ねて白い体液を吐き出した。腰を突き出し反り返った姿勢のせいで、勢いの付いた液体はツナの腹ばかりか胸まで飛び散る。ピンク色に染まった裸体に飛び散った白濁が何ともいやらしい。荒い呼吸をするために大きく開けられた唇から涎が垂れて、赤くなった頬を伝った涙と薄く浮き上がった汗に包まれた身体が、夕焼けの差した部屋の中で発光体のように眩しかった。
 獄寺はツナから目が離せないまま、手の中の性器を根元からゆっくり圧力をかけて扱きあげる。
「あっ、ん…ん――」
 ツナが目を閉じたままいやいやをするように頭を振った。一瞬力が強すぎたかと動揺したが、ツナの陶酔した表情を見るに癖なのかもしれない。
「ん……」
 全てを出し切り弛緩したツナは満足そうなため息を吐き、そのまま軽い寝息を立て始めた。シャツをはだけた全裸に近い姿、それも両足を投げ出した無防備な格好のままで。
 壮絶に色っぽいのに幼さに混じる大胆さが綱吉らしくて、やはりこの人は10代目と同じ人だと腑に落ちる。
 手に付いたツナの精液を舐めると、綱吉と同じ味がした。
 おかしくなりそうな興奮が引いてきて、獄寺は手を伸ばしティッシュを数枚つかみ出す。それでツナの身体を拭っていると、ツナの後ろを苛んでいたおもちゃが吐精した時に身体から押し出されてか、ツナの足の間に転がっていた。
 見てはいけないと思う反面、このくらいの役得は許されるのではないかと考える。もう使い物にならないレザーの残骸と玩具を拾い上げ、それが入れられていた後ろの窄まりへ手を伸ばした。
 最初はただ、太ももやソファーに飛び散った体液を拭うついでに、おもちゃに蹂躙された場所が傷ついていないか、汚れていればツナが羞恥を感じないですむよう清めておくつもりだった。けれど、まだ閉じきれていないそこから白い泡立った体液が流れ出ているのを見て、息が止まった。
(……中に…出して……)
 ツナが別世界の自分にSMの道具としか思えない物を使われているばかりか、中出しされているなんて。獄寺にとってかなりの衝撃だった。かつて獄寺が綱吉と手を繋いだだけでドキドキしていた年頃、別世界のツナと獄寺は今の獄寺よりも遙かに経験豊富な状態だとは予想だにしていなかった。
 獄寺は綱吉に中出しどころか、生でセックスした事がない。性病予防だとか衛生的常識とかの前に、ゴムを使った方が綱吉の身体に負担が少ないからだ。綱吉の身体を労りたいと思う気持ちの僅かな隙間で、綱吉が許してくれるのならば直接触れ合って欲望を注ぎ込みたい欲求は常にあった。
『……オレ、隼人君ならいいよ…』
 不意にツナの甘い声が甦る。張り型で広げられたそこは、今すぐ欲望を突き入れても容易く受け入れるだろう。それどころか快楽に浸った身体は柔らかく、獄寺の身体に馴染むに違いなかった。
 再び下半身に血が集まる。ソファーで寝息を立てるツナはどう見ても据え膳だった。獄寺はしばらく逡巡し、震える手を伸ばした。





 指先に触れた肌はまだ熱かった。表面は汗でひやりとするのだが、ゆっくり撫でて感触を楽しむと、中から消え去らない火種がほてりを伝えてくる。そのまま指を後ろの窄まりへ入れると、抵抗無く熱いぬめりの中に飲み込まれた。中を確かめるように指を回すと、ツナの身体がひくりと反応して軽く締め付けられた。
 僅かに残っていた躊躇いだとか罪悪感だとかが弾け飛び、獄寺は焦れったく思い通りに動かない手でベルトを外し自分の性器を取りだした。既に先から体液が滲んでぬるついている。
 両手でツナの細い足をより押し広げる。よく見るとツナの性器の近くやその奥の陰りに、いくつもの所有の跡が付いていた。夕暮れ時なのと、ソファーの背が丁度窓からの光を遮りツナの身体に影を落としているせいか、先程は気付かなかった。
 異世界の自分が自由にしているあるじの身体は、幼いながら淫靡な芳香を漂わせている。その香りに酔っているのだと心で弁解しながら、獄寺は手を添えなくても硬い凶器を擦りつける。先走りとツナから溢れた精液とが混ざり、くちくちと粘ついた音がした。
 ツナの柔らかい肌に押しつけているだけで、性器の先から例えようのない痺れが伝わってくる。しかも時々触れるツナの窄まりが、誘い込むように蠢いていた。そこに包まれるとどれだけ心地よいか知ってはいても、その甘美な快楽を獄寺はしばらく味わっていなかった。
 獄寺はゆるゆると動かしていた流れのまま、より硬くなった性器を突き入れた。たちまち熱くて狭い肉の中に包まれる。
『は…』
 思わず吐息が漏れる。気持ちいい。久しぶりの快楽に脳内まで痺れた。そのまま体重をかけて押し込んでいくと、すぐに突き当たる。小さなツナの身体では全部入らないのだ。
 ゆっくり引いていくと眠っているはずの身体が逃したくないと言うように引き止めてきた。幼い可憐としか言いようのない子どものなのに、十分に男を知っている、身体が。
 獄寺は熱で乾いた唇を舌先で舐める。ためらいなく目の前にある胸の小さな蕾に吸い付いた。
『ん……ん?』
 ゆるゆると腰を動かしながら、舌先で左右の乳首を舐めたり転がしたり歯を立てたりしていると、ツナが眠りから醒めてきた。ツナの内部が異物を押し出そうと締め付けてくる。
 獄寺はとっさにツナの口に手の平をかぶせ、声を塞いだ。きっとツナは驚いて獄寺を拒むだろう。その前に、嫌とは言えないようにするために。
『ん――?』
 やっと目を覚ましたツナが両手で獄寺の身体を押しのけようと抵抗してきた。獄寺にとっては片手で押さえ込める僅かな力だ。口を塞がれ手も動かせず、下半身には欲望を飲み込まされている状態に、ツナの目が信じられないと言わんばかりに見開かれる。
『誘ってきたのは沢田さんじゃないっスか…』
『…んっ、んっ…うう…』
 言い訳のように囁くとツナは出せない声の代わりに首を振って答えようとした。その動きも押さえ込んで、獄寺は容赦なく欲望を抜き差しする。
 ツナは獄寺を拒んで身体に力を入れたが、獄寺の快楽を増すだけだった。元々中出しされて潤っていた内部はツナの意志を裏切って獄寺を受け入れる。
 楽しみを長引かせるために動きを緩やかにすると、呼吸に余裕が出来たからかツナの身体から無駄な力が抜けて、獄寺をしっとりと包み込んだ。そればかりかツナのその部分は時折ひくついて、もっと刺激が欲しいと教えてくる。
『はっ――あ、んっ……あっあぁ…あっ』
 もうその必要はないと確信して口から手を離すと、ツナは獄寺の動きに合わせて素直に喘いだ。空いた手で胸の突起を摘んで擦ると、ツナは抵抗の一切をやめて目の前の快楽にのめり込む。
『だ、だめっ……あぁ…ん』
 ツナはいやいやと頭を振る。柔らかい癖毛がソファーに当たってぱさぱさと音を立てた。
 当たりを付けて中の一部分を小刻みに突くと、ツナは激しく身体を揺らした。赤くなった顔の目元を更に染めて、涙が伝う。痛みや悲しさ悔しいという気持ちよりも生理的な物だと、獄寺はどこか遠くで考えた。
『……ここなんスか』
『やあ――っ…あっ……うぅ』
 ゆっくりねちっこく同じ所を擦り上げると、ツナは痙攣のように身体を戦慄かせ獄寺を締め付けてきた。綱吉と同じところが弱いのだと思うと、綱吉を抱いているような気がする。
『は…、はは、犯されてんのに感じてんスか。エロい身体してるんスね、沢田さんは』
『だ、……って、は、やと、くっ…は、あぁ、ごっ――くでら、くん、…お…なじ…から』
 荒い息の合間に涙目のツナが言い訳を口にした。ツナの身体はびくつき強ばりながらも、萎えていた性器が勃ち上がっている。それが自分でも分かったのか、ツナは獄寺の視線から逃げるように目を閉じた。
 獄寺は弱点を擦り上げる動きを止めると、ツナの立ち上がった性器の根本を輪にした指で握りしめる。
『オレはあなたの恋人じゃないっスよ…。同じ獄寺隼人でも、オレは、別世界の存在だから――別の人間です……』
 最後の方は吐息だけでツナの耳に吹き込んだ。
『……は、やと、……くん』
『恋人以外の男に突っ込まれてよがってるなんて、いやらしい人だ……。そんなにこれが好きなんスか…。淫乱、なんですね……』
『あっ!』
 止めていた腰をぐちゃりと音を立てて掻き混ぜる。ツナの身体が強ばりきゅうっと締め付けた。無意識に快楽を得ようとツナの腰が揺れる。けれど、ツナは自分を見つめる獄寺に自分が何をしたのか気付き、慌てて視線を逸らした。涙に濡れた目元は興奮と羞恥心から真っ赤に染まっている。
『欲しいんならご自分で動かしたらいかがですか。……今更、そんな恥ずかしい格好見せておいて、我慢されるなんて滑稽ですよ』
 獄寺は息が乱れないように深呼吸した。言葉責めなど綱吉にはした事もなければ、する機会もこの先無いだろう。たまに妄想の中であるじを辱める言葉を使う時もあるが、現実にはとうてい口に出来ない事だった。ツナが恥ずかしがっている姿を見ていると、酷い言葉がすらすら出てきて、そんな自分に戸惑いながらも下半身はむしろいきり立ち、獄寺は自分の隠れた性癖に気が付いた。
『……沢田さん』
『やっ、あ、あぁん』
 震える身体で必死に我慢するツナの胸に手をのばす。手を広げ親指と中指で左右の乳首を乱暴に押しつぶすと、ツナは獄寺の手に押しつけるように胸を反らした。やがて観念したのか徐々に自分で腰を動かし始める。両足を広げ獄寺に貫かれた格好のまま、不自由な足と腹筋の力を借りて。
『ん、あっ、あ…やっ、は、なして』
 ツナが獄寺の腕にすがり自分の性器を掴んだままになっている手を離して欲しいと訴える。手の中の物はひくひくと脈動して、粘力のある体液を零した。
『……ね、がい…っ……う、うごいてっ…』
『……どんな風にですか?』
 確認をとるとツナは閉じていた目を開けて獄寺を睨んだ。けれど、獄寺がツナの性器を掴んだ手に力を入れて扱くと、たちまち目元が熱っぽくとろけた。
『あうっ――ひ、どくして、いっ――から、あ、あんっ……いっぱい、ぐちゃぐちゃに、き――もち…よく、しヒィ――ッ』
 獄寺は最後まで言わせず激しく腰を動かした。ツナが感じる場所へカリが当たるようにかき混ぜる。熱い内部がきつくまとわりついて、動かすたび堪らない。
『あっ、あんっ、あ、いっ…』
『……い、っスか、さ、わだ、さん…中す、げ、食いついてきて……』
『ん、うんっ、うあ――あっ……い、いいよぅ、う…き…もちい――』
 ツナは息も絶え絶えになりながら獄寺を受け入れ、両腕を首へ巻き付ける。そのまま抱きしめられるようにツナの首筋へ顔を埋めて、獄寺は大きく息を吸った。綱吉と同じ匂い。綱吉と同じ熱くて気持ちいい身体。それなのに、どこか満たされず何かが足りないと感じてしまう。
 獄寺は綱吉には出来ない行為の快楽に浸りながら、今自分の身体の下で喘いでいる存在が綱吉だったらと考えた。
 途端に射精感が募って、奥歯を噛みしめやり過ごす。
『――じゅ、だいめ…』
 獣じみた荒い息で最愛の人を呼ぶと、首から背中へ回されていた腕が動き頭を撫でられた。その優しい動きには覚えがあった。
『……ごくでら…くん』
 顔を上げると綱吉と目が合った。獄寺が今すぐ会いたくて毎日でも抱きたい狂おしいほど惚れ込んでいる、愛しい人。
『10代目…!』
 綱吉に受け入れられているのだと思うと興奮して目の前が白くなる。
『ま、だ…っ』
 イキたくないと思うのに気持ちよすぎて、綱吉の身体を気遣う余裕もなく腰を振りたくる。綱吉はそんな獄寺を非難することなく甘い吐息を漏らした。その色っぽい唇へ自分の物を重ねて吐息ごと貪れば、綱吉の内部が獄寺を締め付けて堪らない刺激に襲われる。
『ん、ん、ふ…』
 息さえも奪う口付けを続けながら、獄寺は綱吉の細い腰を掴み抉るように突き上げた。
『ご、くでら…ん』
 綱吉の身体が痙攣し途端にぎゅうっと絞られた。我慢せず解き放すと全身が痺れるような悦楽に満たされた。








「……くそっ」
 獄寺は力なく罵りの言葉を吐いて、左手でトイレットペーパーをたぐった。ドアに凭れさせていた気怠い身を起こし、荒い息を整えながら手に付いた精液を拭う。
 トイレから出てリビングに戻ると、ツナはソファーで眠ったままだった。
 ツナの身体を清め寒くないようにブランケットを掛けたあと、獄寺はどうにも我慢できなくてトイレで処理をした。目の前で晒されたツナの痴態が強烈すぎて、ツナを犯している自分と犯されながら快楽にのめり込んでいくツナを妄想しながら。
 ツナを犯している妄想は背徳感のせいかいつもより興奮した。けれど、小さなツナをいたぶる罪悪感や綱吉を裏切っている後ろめたさで、今一のめり込めなかった。途中で相手を綱吉に替えると、今度は気持ちと身体が暴走してあっけなく吐き出してしまった。
 実際には絶対に出来ない蔑むべき行為を(妄想の中とはいえ)易々実行できる自分は、綱吉を気遣っている心の一部で、常に綱吉を欲望のまま自由にしたいと願っているのだろう。綱吉の気持ちなど顧みず自分が思うままに欲求を叶えたいと。そんな獄寺の欺瞞を綱吉は敏感に感じ取り、拒んでいるのかもしれない。
 獄寺は今更ながら、ツナが今の綱吉よりも小さな姿で現れてくれた事に感謝した。これが綱吉と同じ年頃であんな姿を見せつけられたら、妄想で思いとどまれていたか正直自信がない。ツナにのばしかけた不埒な行動を止めたのは綱吉に対する誠意もあったが、一番はツナの小ささ、いとけなさからだった。獄寺が中学生ならば抱きしめて丁度いい体格差も、今では犯罪としか思えない違いがある。獄寺が抱くと壊してしまいそうな繊細さが、恐ろしかった。


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