特別な日 



 日曜日の朝、勤労学生城之内は忙しい。洗濯機を回し布団を干し部屋の掃除をする。必要に迫られての事なので隅々までキレイとは言えないが、気心の知れた友達を招いて恥ずかしくない程度であれば充分だ。昨夜も酔っぱらって帰ってきた父親が代わりにやってくれるはずもない。それどころか、今日が息子の誕生日だという事も覚えていないようだ。
 もっとも、父親と二人暮らしになってから、誕生日のお祝いはもちろん、クリスマスなどのイベントごとも無くなっていたので、城之内は特別悲しいとも思わない。むしろ飲んだくれて暴れるぐらいしか脳がないと思っていた父親が、静香の手術のメドが立ってから、少しずつではあるが日雇いの仕事をして、家に金を入れるようになったのだから、大した変わり様だと思う。
「今日はいい天気だぜ〜」
 掃除の合間に小さなベランダに干した布団を叩いてひっくり返す。鼻歌を口ずさみながら、城之内はついでに風呂とトイレも掃除しておく気になった。遊戯と約束の正午まではまだ時間があるとはいえ、おっくうでしかないはずの掃除を楽しく感じるのが不思議だった。

 しぶといカビや黄ばみに手こずったあと、時計を見ると約束の時間になっていた。
 城之内は慌てて布団を取り込み戸締まりをすると、ダッフルコートと財布を掴んで家を飛び出した。約束の場所はアパート近くの公園だが、「出来たら十時くらいがいいんだけど」と言う遊戯に、城之内の都合から時間を変えてもらったのだ。遅れる訳にはいかない。
 城之内がコートのボタンを留める暇もなく駆けつけると、公園のベンチに座って待っていた遊戯は驚いて立ち上がった。
「どうしたの、そんなに慌てて」
「わ、りい。遅れた」
 荒い息をしながら両手を合わせて詫びると、遊戯は「五分しかたってないよ」と笑って城之内にベンチを勧めた。城之内の呼吸が落ち着くまで待って、ポケットから小さな包みを取り出す。
「城之内くん、これ、ボクともう一人のボクからのプレゼント」
 遊戯からの贈り物に、城之内は顔を綻ばせる。
「サンキュ。オレ遊戯の時は一人分しか渡してないのに悪ぃな」
「そんなの全然気にしなくていいよ。今日で城之内くんも十七歳だね。お誕生日おめでとう!」
 城之内はもう一度小さく礼を言って、照れ隠しに鼻の下を擦った。
 誕生日の季節柄、城之内は防寒用具をプレゼントにもらう事が多い。もしくは生活状況を慮っての生活用品だ。手の中にあるラッピングされリボンの付いた包みは、大きさからしてもすぐには分からなかった。
「中、見てもいいか?」
 城之内がリボンをほどこうとすると、遊戯は慌ててその手を止める。
「後で見て。一人の時に。それからね、おまけのプレゼントがあるんだ〜」
「おまけ?」
「て言うか、こっちが本命かも」
 遊戯の悪戯っ子ぽい含み笑いに訳が分からず、城之内は目を丸くする。
「ゴメン、だってさ〜。何照れてんの」
 遊戯は隣の城之内にではなく、傍らの空間に向かって戯けた声を出す。おそらくそこにはもう一人の遊戯がいて、何か突っ込まれたのだろう。城之内にはもう一人の遊戯の姿は見えないし、二人が何のネタでじゃれているのかも分からない。
(……こういう時、こいつらの間には入れねえんだよなぁ)
 今更ながらしみじみと城之内は思い知る。しかし、二人の仲が良いのは分かり切った事で、二人の仲が壊れる事は恐ろしいし、むしろ二度とあって欲しくなかった。
 城之内が手持ちぶさたでいると、それに気付いた遊戯が慌てて詫びてきた。
「ゴメン。後はもう一人のボクに任せるから。じゃ、ごゆっくり〜」
 最後まで妙な笑いで浮かれ声な遊戯の気配が消えた後隣のベンチは、城之内の想い人へ入れ替わっていた。
「よ、よう、久しぶり。プレゼントありがとな」
 胸の動悸を抑えつつ早口に城之内が声をかけると、俯き気味だった遊戯はちらりと城之内に視線を合わせ頷いた。しかし、すぐに目を逸らし、ベンチに腰掛けて余裕のある足をプラプラ動かすばかりだ。
 城之内の位置から遊戯の表情は癖のある前髪が被さって見えないが、耳朶がピンク色に染まっていた。一月とは言え今日の天気は春先かと思うほどに暖かい。何より先程の遊戯の言動を思い出すに、どうやらこの遊戯は照れているらしい。その理由は城之内に分からないが、胸に愛しさが込み上げてきて、抱きしめたくなるのを我慢しなければならなかった。何しろここは自宅そばの公園で、人目も多い昼時なのだ。
「デートしようぜ城之内くん」
 迷いに踏ん切りを付けるように、遊戯は勢いよく立ち上がる。
「デート?」
「そう。これから街に行って遊ぼうぜ。今日は相棒が二人きりにしてくれるってさ。ママさんとじいちゃんにも遅くなると言ってあるんだぜ」
 太陽を背に笑顔を見せる遊戯が眩しくて、城之内は目を細める。遊戯が着ているダウンコートのフードにはラビットファーが付いていて、逆光でファンタジックに輝いていた。
 それは城之内が遊戯と初めて関係を持った時に彼が着ていた純白のコートを連想させ、当然あの日の記憶もリピートされた。
 遊戯は目を細めたまま反応のない城之内に近付いて顔を覗き込む。
「城之内くん?……君の都合が悪ければ無理にとは言わないぜ?」
「わわわ悪くねえ。ぜんっぜん悪くねえよ!」
 真っ昼間から何を考えているのかと、城之内は腰を上げる。反応しかけの股間が己の浅ましさを非難するかのようで、コートで遊戯に気付かれるはずも無いというのに、城之内は足早にバス停の方へ歩き出した。
「城之内くんも昼飯まだだろ。何が食いたい? 奢るぜ」
「そっか? じゃあ…ありがたくゴチになるぜ」
 メニューを考えるフリをしながら、城之内は隣に歩を合わせる遊戯を盗み見る。彼はベンチに座っていた時、何かを恥じらっていたのが嘘のように颯爽とした足取りだった。

 童実野中央経由のバスを待つ間、城之内は遊戯とのたわいない会話を楽しみつつ葛藤を繰り返していた。
(あ〜〜……やりてえ)
 遊戯が許してくれるのならば、街には行かず今すぐ二人きりになりたかった。誰の目も気にしないですむ場所で、遊戯を抱きしめ口付けをして、滾っている己の欲望を彼の中に埋め込みたい。
 城之内にとっては憧れでもある遊戯が、己の身体の下で甘く乱れる様を知ってからと言うもの、彼に会うたび湧き上がる邪な妄想と欲望で自己嫌悪さえ感じる。
 初めて関係を持って以来、遊戯とこんな風に二人で会う日は必ずしているので、条件反射のごとく身体が期待しているのだろう。
(……まさにパブロフの犬ってヤツだな)
 心の中で苦く吐き捨てる。
 いくらやりたい盛りの高校生とは言え、会うたび身体を求めるのは気が引ける。遊戯の身体を思うと無茶な事は出来ないし、したくもない。彼は大切な仲間で親友だ。そして城之内にとって唯一恋心を抱かせる存在なのだ。
 まして今日は城之内の誕生日。せっかくの休日を費やして、二人の遊戯が用意してくれた「プレゼント」を蔑ろには出来ない。
 城之内は遊戯との会話に笑顔で応えながら、脳裏にちらつく彼の裸体を振り払った。


「ふ〜〜。ごっそさん」
「……ホントにラーメンで良かったのかい?」
 隣を歩く遊戯は、途切れることなく続いている行列を振り返りながら、店の中と同じ質問を繰り返してくる。城之内が遠慮をしているのではと心配らしい。
「あそこのスペシャルチャーシュー麺は、オレにとっちゃあ滅多に食えねえご馳走なんだぜ? 遊戯こそオレに付き合ってラーメンで良かったのかよ。ろくに食ってなかったじゃねぇか」
 城之内からすれば、普通サイズのラーメンを半分も食べられないでいた遊戯の方が気になるという物だ。ちなみに遊戯の残りは城之内が替え麺代わりに平らげた。
 遊戯は城之内に恥じらい気味に微笑んだ。
「今日は城之内くんの誕生日だから…」
「ん?」
「……君に今こうして会えた事が嬉しくて…。城之内くんを生んでくれたお母さんに感謝の気持ちで、なんだか胸が一杯で食えなかったんだぜ」
「遊戯……」
 城之内を真っ直ぐに見つめてくる遊戯の瞳は潤んでいた。頬は店内での熱気が抜けていないのか、暖かな色に染まっている。
 知らず城之内はごくりと咽を鳴らしていた。
(なんかメチャメチャかわいいんだけど……、オレ誘われてんのか?)
 バスの中で期待を叩き出したばかりだというのに、隙あらばと諦めていない己がつくづく浅ましい。だが、遊戯がその気なら今すぐにでも願いは叶えられる。
「あ、あのよう遊戯、これからどうする?」
 遊ぶっつっても行き先が決まってねえんなら…。そう言葉を繋げようとした城之内を牽制するように、遊戯はニヤリと笑ってコートのポケットから財布を取り出した。
「ここに行こうぜ」
 遊戯が財布から抜き出した物は、KCのロゴが入った二枚のカードだった。どちらもロゴの位置と大きさは同じだが、片方は光の加減で表面がキラキラと輝いている。城之内には青地に白抜きのシンプルなカードが渡された。
「海馬ランドオンリーのキャッシュカードだぜ。オレは相棒のを借りるから城之内くんはそれを使えばいいぜ」
「海馬ランドオンリーのキャッシュカード?」
 訳が分からず城之内は手にしたカードをひっくり返したり日に翳してみたりする。特にどうという事のないカードだ。
「相棒のカードは特別仕様だから無期限だが、城之内くんのカードも海馬ランドでゲームをする分には今日から一ヶ月使い放題だぜ。相棒が海馬から巻き上げ…いや、城之内くんの誕生日祝いにもらった物だから、遠慮しなくていいぜ」
 遊戯は屈託なく「これで新しいシューティングゲームをエンディングまで出来るぜ」と喜んでいるが、城之内は海馬が恋人の頼みとは言え、対立関係の自分に利便を図るなど何か企みがありそうで躊躇ってしまう。
 城之内の表情に心情を察したのか、遊戯は小悪魔に似た笑顔を見せた。
「海馬と海馬ランドでうっかり会ったりしないか心配なのかい? 安心していいぜ。今日もあいつは仕事だし、例え視察の用事があったとしても、今日は絶対店内に現れないぜ」
「……それはもう一人の遊戯が約束させたのか?」
「海馬は相棒にメロメロだからな。ま、その辺の詳しい事は秘密らしいぜ。オレがどんなに聞いても教えてくれなかったぜ」
 艶のある流し目の後、遊戯はウインクをしてきた。普通の男にされたら寒気がする気障な仕草も、彼には不思議と似合っている。
 妙な息苦しさを感じて、城之内は小さく咳払いした。
 城之内の勘違いではなく、今の遊戯にはあからさまに性的な含みがあった。
 おそらく彼は相棒で恋人でもある遊戯との情事を思い出したのだろう。元々彼と城之内の身体の関係は、二人の遊戯が心の中で行うセックスの助けを目的とした物だった。
「……じゃ、行くか」 
 割り切っていたはずの胸に少しだけ痛みを感じて、城之内は海馬ランドの方向へ足を向ける。足早の城之内に遅れまいと歩を早める遊戯が、半歩先を歩く城之内を見上げ、切なげに眉をひそめた事など、気付くはずもなかった。


 海馬ランドは休日の昼間だけあって、家族連れや若者達で賑わっていた。
「ところでよう。このカード、ホントに使えんのか?」
 城之内にしてみればいかにいつもの遊戯が取りなしたとしても、海馬が自分に有益な事をしてくれるとは思えない。
「心配なら聞いてみればいいぜ」
 遊戯はさっさと人混みをすり抜け、一階フロアの総合案内窓口へ向かう。
「いらっしゃいませ」
「すいません、このカードは使えますか?」
 にこやかに対応した受付嬢は、遊戯が見せたカードに一瞬ぽかんとして動きを止めたが、すぐさま笑顔を作り説明を始めた。
「失礼しました。このカードは海馬ランドの総てのゲームを無制限でご利用頂けます。各ゲーム機のプレイ料金表示部分にカードを翳して頂けますと、すぐにゲームが始まります。コンティニューの場合はその都度同じ方法で延長できますが、人気のゲームなどは混雑しておりますので、他のお客様にご迷惑にならないようなるべく長時間のプレイはご遠慮下さい。
「また、カードの管理はご自分でお気を付け下さい。万が一紛失された場合はお早めに最寄りの社員へご連絡下さい。――他に何かご不明の事はございませんか? 
「それでは、本日は海馬ランドをご利用下さいまして誠にありがとうございます。ごゆっくり心ゆくまでお楽しみ下さいませ」
「あ、ども、おじゃまします」
 深々と頭を下げる係員に城之内は場違いな返事をして店内へ歩き出す。隣を歩く遊戯にクスクス笑われ、ごまかし半分で戯けてみせた。
「なんかメチャクチャお偉いさん対応でビビッたぜ〜。何でこんなカードもってんのか、後で取り調べられるなんて事はねーよなぁ?」
「城之内くんは心配性だな。問題が起これば海馬が後で相棒に怒られるんだ。海馬もわざわざオレ達に嫌がらせはしないだろうぜ。
「――さて、どこから回る? 城之内くんがやりたい物につき合うぜ」
「そうだな〜…」
 城之内はワクワクした気分で一階のフロアを見渡した。ここは地下二階と地上二十階の巨大室内アミューズメントパークだ。金の心配はないとは言え今日の時間は限られている。
 しばし頭を悩ませた城之内はコートを脱いだ。店内は暖房で暖かく、元来城之内は少し肌寒いくらいが好きだった。
「その前に服、ロッカーに入れとこうぜ。持ってると邪魔くせーし」
 海馬ランドには奇数階ごとに返却式コインロッカーがある。預ける時は百円を入れなくてはならないが、取り出す時にはお金が返ってくる、よくスーパーやデパートにあるタイプと同じ物だ。
 城之内がロッカーにコートを放り込んでも、付いてきた遊戯は上着を脱ぐそぶりがない。
「オレはこのままでいいぜ」
「そうか? 結構、店ん中あちいぜ?」
 遊戯がいいという物を無理に脱がす訳にも行かず、城之内は鍵をかけた。どちらの遊戯も城之内よりは寒がりだが、既に赤い頬をしている彼の本音は分からない。
 二人は城之内のリクエストで、人気の体感アトラクションフロアへ上がっていった。

 KCの専売特許であるバーチャルシステムを駆使したゲームは得に人気がある。ライド系はどのゲームも長蛇の列だ。
 新作を含めていくつか体験したライドの中で、城之内が気に入ったのは宇宙船のコクピットを模して、バーチャルシステムを駆使した三六〇度に移動するシューティングだ。激しい回転で三半規管がタフでなければとうていクリア不可能なゲームだが、だからこそ挑戦しがいがある。一定の年齢制限があるため、プレイすると言うだけで妙なステイタスがあるのも人気の一つだ。
「今のヤツ、スッゲー面白かったぜ〜」
「じゃあもう一度並ぶかい?」
「その前になんか飲もうぜ。さっきからのどが渇いて仕方ないぜ」
 ひときわ長い行列を眺めて、城之内は額の薄い汗を拭う。薄手のセーターの城之内でさえこうなのだから、ダウンコートを着たままの遊戯はもっと暑いに違いない。現に遊戯の顔は茹だったように赤く、時々額から流れる汗を拭いている。
(……なんで脱がねーんだろ…?)
 遊戯には何かしらの拘りがあるのだろうと深く考えていなかった城之内だが、さすがに心配になってきた。
 店内は暖房と人いきれで半袖姿の子どももいるくらいだ。
 フロア中央にあるフードコートは、ドリンクや軽食で休憩を取っている人々が溢れていた。
「飲み物ぐらいはオレが払うぜ。遊戯は何がいい?」
「…じゃあ、コーラをお願いするぜ」
「オッケー。買ってくるからそこで待っててくれ」
 売店の列に城之内が並んで待っていると、視界の端で遊戯がその場にしゃがみ込んだのが見えた。
(やっぱどっか悪ぃのかな…)
 浮かれ気分で自分のやりたいゲームに散々付き合わせてしまった城之内は、今更ながら後悔に包まれる。幾ら自分の誕生日で遊戯が気を遣ってくれているのだとしても、遊戯の不調を押してまで楽しむ気にはなれない。
 城之内はコーラを二つ買い終わるとすぐさま遊戯の元へ戻った。遊戯は城之内が買い物をしている間に空いたベンチを確保して、戻ってくる城之内に手を振ってくれた。
「ほい。待たせたな」
「ありがとう。遠慮無く頂くぜ」
 隣に座りカップを差し出すと、遊戯は笑顔で受け取った。その表情には特に疲れの色も見えず、少しだけホッとする。
 遊戯は言葉通りすぐカップに口を付けると旨そうに喉を鳴らしあっという間に飲み干した。底に残った細かい氷を口に含み、コリコリ噛み砕く姿が愛らしい。
「遊戯。お前、無理してんじゃねぇのか?」
「?」
 城之内の言葉に遊戯は目を丸くして視線を合わせてきた。
「ホントは風邪気味とかで具合が悪ぃのに、オレに付き合ってくれてんだったら、オレは、」
「ちょっと待ってくれ城之内くん。オレはどこも悪くないぜ」
「でも服きたまんまだし。熱いのに我慢してんのは、身体を冷やしちゃいけないとか理由があるんだろ?」
「いや、これは脱ぐに脱げないだけで…」
 何故上着を脱げないのか理由が思いつかず不思議そうな顔をした城之内に、遊戯は失言だったばかりに口を押さえた。
 遊戯の視線が脇に逸れ「いやでもしかし」だの「だってそれは」だのぶつぶつ言っているところを見るに、側でもう一人の遊戯がなにやら彼に忠告しているらしい。
 やがて彼は小さく「分かった…」と呟いて、城之内に向き直った。
 遊戯の大きな目で見つめられて、城之内は押さえていた彼への劣情が湧き上がるのを感じた。それでなくとも赤い顔をした遊戯は可愛らしく、潤んで光を集めた瞳は誘っているとしか思えない。
「ちょっと……オレと一緒に来てくれるかい」
「お、おう」
 城之内は残っているコーラを飲み干しカップをゴミ箱に捨てると、彼の後について行った。
 遊戯はフロアの端まで来ると、周囲を伺ってからさり気なく「関係者以外立ち入り禁止」と書かれたドアの向こうに消えた。一瞬そんなところへ入って大丈夫なのかと迷ったが、城之内も一応周りに気を配り、さも当然の顔をしてドアを開けた。
 そこは小さな通路に面した社員専用のエレベーターと階段があるだけの場所だった。暖房の効いた店内とは違って吐く息が白くなるほど寒い。もっともそれくらいが今の城之内には気持ちよかった。
 てっきり涼むために連れてこられたと思った城之内は、突然遊戯に抱きつかれ硬直した。
「え? ななな何だ? どっした遊戯」
 不自然なほど声が裏返っても仕方が無いという物だ。遊戯は無言のまま、焦る城之内を壁に押しつける勢いで身体をすり寄せてくる。そこまでされてやっと、上着を脱ぐに脱げないと彼が言った意味に気付いた。
 城之内の太ももには遊戯のダウンコ−ト越しに覚えのある固まりがある。自己主張するそれの熱さに連鎖して、城之内の体にも火が着いた。
 かろうじて理性が欲望を押し止めたのは遊戯の股間の上にある別の固まり、千年パズルの存在だった。いつもの遊戯は出てこないだろうが、強すぎる感情は心の部屋にいても伝わってくるのだと聞いた事がある。
 城之内が遊戯の誘いに躊躇していると、遊戯はだめ押しをするように熱い吐息を漏らした。
「……浅ましいだろ。城之内くんの側にいると、オレは君に抱かれている時の事を思い出すんだぜ…。今日は君の誕生日だから、オレがちゃんと相棒の分までエスコートしないといけないのに…、ずっと…、バスを待ってる間から、は、やく、二人きりになりたいと……思ってた…」
「遊戯…」
 遊戯も自分と同じ気持ちだったのだと分かって、城之内は喜びが込み上げる。今までの彼の不自然な行動は、興奮している自分の欲望を城之内に知られまいとする精一杯な強がりだったのだ。
「オレも遊戯と同じだぜ」
 恥ずかしそうに城之内の胸へ顔を埋めていた遊戯が驚いて見上げてくる。城之内は遊戯の体を抱きしめて軽いキスをした。
「…城之内くん」
 遊戯が少しでも距離を縮めようと背伸びして、城之内の肩へ両手を回してくる。
 彼の可愛い仕草に、城之内は腹の位置にある千年パズルの存在も気にならなくなっていた。
 城之内は遊戯に微笑むと、今度は深い口づけをするために唇を重ねる。城之内の性急で無遠慮な舌先に彼は応え、自分からも誘いをかけてきた。


    >>



■結局W遊戯のプレゼントは何だったんだとか中途半端なのは、この話がまだ半分だからです。たったこれだけでも書くのに一年もかかってしまったので、残りを書き上げられるのも一年ぐらいかかりそう…。じゃあ後半は来年でいいやって、年明け初っぱなから来年の話かよ!
■城之内視点の城闇は書くのがとても楽しいですv 闇タマを可愛い可愛い言っても、大丈夫だしね!20050125