GAME OF SECRET


  ■6■


 「ゲーム」十六日目。
 海馬は人気のない昼休みの教室で、机に伏して仮眠を取っていた。
まだ「ゲーム」は半分残っているというのに、今の海馬には残りの日々を楽しむ余裕は無くなっていた。
 昨日、社長室で仕事中に倒れた海馬は、心配性な側近の頑とした態度に押されて病院へ行き点滴を受けた。仕事でならもっとハードな時間を過ごしてきたが、不慣れな学校では出来る仕事は限られている。連日の睡眠不足やオーバーワークよりも、思い通りに事が進まないストレスの方が、海馬の疲労を増す原因となっていた。
 
「海馬くん…」
 海馬の耳に心地良い声音が届く。
「海馬くん、大丈夫?」
 海馬は肩に遊戯の小さな手が置かれるのを感じた。躊躇いがちに触れてきた温もりは、既に二度、己の手で確かめてある。
 直ぐに海馬の意識は明瞭になった。誰もいない教室で人目を憚る必要はないが、遊戯には弱い所を見せたくない。
 海馬はふと、何故仮眠を取っていたのか疑問に思った。
 昼休みは遊戯が様子を見に来るかもしれないと、いつも気を張っていた。昨日などは呑気な顔でやって来た遊戯に、心底呆れつつ安心したものだ。一昨日の朝は遊戯にまで向けられそうになった悪意を逸らすためとはいえ、随分酷い態度を取ってしまったからだ。
 恋心を抱いてから遊戯は海馬にとって、モクバに次ぐ守るべき存在になっていた。それ故どんな時でも、海馬は遊戯の姿を見たり声を聞くと癒された。最愛の弟にしか感じなかった感情で胸が甘く満たされるのだ。
 海馬は遊戯の顔を良く見るために、目を瞬いた。

「やっとお目覚めか」
「貴様…」
 海馬を覗き込んでいたのはもう一人の遊戯だった。からかわれたのだ。
 二人は同じ身体だが、声を聞き間違えるなどどうかしている。今日この遊戯はパズルを胸に下げていなかった。二人の遊戯はパズル無しでは入れ替われない。いつもの遊戯は現れないと分かっていたからこそ、仮眠を取っていたのではなかったのか。
 海馬は重い痛みを感じて頭を押さえた。
 遊戯はそんな海馬の姿に含み笑いをしつつ、手近な席の椅子を海馬の横へ置き腰を下ろした。
「随分お疲れみたいだな。いい加減サレンダーしたらどうだ」
 海馬のきつい視線を平然とかわして、遊戯は足を組み背もたれに寄りかかる。
 中身が違うだけで姿形には特に変化が無いはずなのに、海馬の眼前にいる遊戯は組んだ足さえ長く見える。明らかに小さな身体を同等の大きさに感じた。
 海馬はこの遊戯の、特に目が嫌いだった。
 好戦的な眼光は、デュエルに於いて誰よりも心騒がせ血を滾らせる。
 しかし、宿命のライバルと認めているからこそ、日常では見たくなかった。
 恐らく二人は似ているのだ。己より強い者は許せない、跪かせたいという雄の本能に、より忠実なのだろう。
「……もう一人はどうした」
 海馬は呪詛に似た、恨みがましい声を出す。
 遊戯は大仰に肩をすくめた。
「相棒なら心の部屋で眠ってるぜ。昨夜は色々あったからな。知りたいか?」
 海馬は一笑して返事とした。明らかな誘いに乗る気は無い。デュエル以外ではこちらの遊戯に興味はないし、いずれこの遊戯は公式の華々しい舞台で叩きのめす予定だった。
 海馬が話に食いついてこない事に焦れた遊戯は、強硬手段として海馬の手に触れた。机の上に置かれた作り物めいたものを、重ねた手のひらで包み込む。
 海馬は椅子の音をたて、勢いよく遊戯の手を振り払った。手の形も暖かさも、いつもの遊戯で知った物と同じはずなのに根本的に何かが違う。この遊戯が触れてきた時に感じたのは嫌悪感のみだ。まるで触れた肌を通して邪悪な気配が忍び込んでくるかと思った。
 海馬の意識を自分に掴んだ遊戯は、これ見よがしに海馬に触れた手を、制服にゴシゴシ擦りつける。
「オレは相棒を抱いたぜ」
「……何?」
 海馬は遊戯が余りにもさらりと言ったので、暫く意味が分からなかった。
「まだ頭が眠ってるみたいだな。もう一度言ってやるぜ。オレは相棒とSEXした。だから「ゲーム」にお前が勝っても、相棒はお前のモノにはならないんだぜ」
 まるで子供じみた発想に、海馬は苦笑を漏らすしかない。
「冗談ならもっと笑えるモノにしろ、バカバカしい。貴様らは二重人格だろう。SEXなど、出来る訳がない」
「残念ながら違うぜ。相棒は元々の武藤遊戯だが、オレはパズルの中に閉じこめられていた、「王の魂」らしいぜ…」
 遊戯の言葉を聞いた海馬は、肩を振るわせ暫く堪えていたが、そのうち腹から笑い声を上げた。
「貴様正気か? 今すぐ良い病院を紹介してやるぞ。世迷い言にも程があるわ!」
 海馬は非科学的な事は信じない。二重人格はともかく、パズルに閉じこめられた「王の魂」などと、恥ずかしげも無く良く口に出来るものだと思った。
「まあ、お前が信じなくても事実だから別にいいぜ。
「オレ達は心の中で現実世界のように触れ合える。オレは心の中で相棒を手に入れた。お前が欲しがってる、相棒の心も身体も、な…。
「相棒の唇は甘い味がしたぜ…。身体は柔らかで暖かかった。オレの全てを包んで飲み込んでくれたぜ」
うっとりしながら語る遊戯を海馬は声もなく見つめた。
「お前は知らないだろうがな、相棒はあんなかわいい顔をして結構エッチなんだぜ…。その手のビデオや本はかなり持ってるし、昨夜は自分でするより全然いいって何度もせがんできて、オレを離してくれなかったんだぜ…。
「おかげでオレは寝不足だぜ」
 その言葉どおりに遊戯の目は赤く血走っている。目元も腫れぼったい。
 海馬は遊戯の話を信じた訳ではないが、仮に遊戯の話が可能だとしての疑問を口にした。
「……貴様は男を抱く場合の正しい知識があるのか? 女と違って男は濡れんのだ。…まして入れる時はそれなりの準備が必要だ。痛みもある。よほど手慣れた者が薬でも使わん限り、初めてで何度もせがむ程感じるとは思えんな」
 海馬の冷静な意見に遊戯は少し視線を泳がせた。海馬から見て左方向への目の動きは、人間が嘘を付く時、無意識に出る行動だった。
「……心の中は現実と少し違うんだぜ」
「嘘吐きめ」
 断言した海馬に遊戯は怯んだが、すぐ余裕の表情になった。
「お前が信じなくても事実だからどうでもいいと言ったはずだぜ。……確かに相棒は最初痛いって泣いてたぜ。でも、」
 最後まで聞かず、海馬は遊戯の胸倉を掴み上げる。
「貴様、あいつを泣かせたのか? 例え心の中だろうと、同じ身体の貴様だろうと、あいつを傷つけるヤツは許さんぞ!」
 突然の剣幕に遊戯は唖然としたが、すぐに海馬を突き飛ばし、埃を払う仕草の後、乱れた服を整えた。
「今まで散々相棒を苦しめて泣かせてきた張本人が、よく言うぜ」
 遊戯の非難に海馬は反論出来ない。そのとおりだからこそ、告白しても信用されず、「ゲーム」をする事になったのだ。
「お前、海馬家の養子になってからはまともな友達付き合いなどしたこと無いんだろう? 学校へ来たって声を掛けるのはお前に取り入ってうまい汁を吸おうとしているヤツか、お前の外面に惹かれて彼女になりたい女くらいだものな。
「相棒はそんな独りぼっちのお前を見ていると、子ども時代の自分を見ているようで、辛くて放っとけないんだぜ。
「お前こそ思い上がるなよ。相棒はお前なんか好きで構ってるんじゃないぜ。お前が嫌いな同情からだぜ」
 押し黙る海馬に遊戯は言いたい事を言って気が済んだのか、借りていた椅子を元の席に返した。そのまま戸口に向かった後、駄目押しをするように振り返る。
「諦めの悪い男は余計相棒に嫌われるぜ?」
 遊戯が姿を消しても暫く海馬はその場に突っ立っていた。
 遊戯の言葉どおり、二人の遊戯が恋愛感情で繋がれば、その絆を裂く事は難しいだろう。
 だが、海馬は諦めの悪い男だった。
 例え遊戯の話が事が全て真実でも、海馬が求めている側の遊戯は、いつも海馬に微笑んでくれた。その裏に哀れみや同情があった所で、海馬は傷つく柔な神経は持っていない。少しでもこちらに気があるのならそこから食らいついて、それ以上の気持ちにさせれば良いだけの事だった。
 海馬は椅子に座ると冷静になる事に努めた。告白に戸惑いながらも、決して嫌悪を見せなかった遊戯を覚えている。
 恐らく遊戯は誰とも経験がない。その遊戯がたった一晩で溺れる程性行為にのめり込むものだろうか。
 海馬は初体験の時を思い出そうとして止めた。個人差のある物事を比較した所で意味はない。
 今の海馬がすべき事は「ゲーム」を勝利で終わらせる事だ。遊戯と取り交わした正当な約束事に、もう一人の遊戯がしゃしゃり出てきて、海馬の当然の権利を侵害される覚えはない。
 頭痛が治まらない。
 いつもの遊戯に会いたかった。
 海馬はせめて記憶にある遊戯の笑顔を思い出そうと、きつく目を閉じた。


「――海馬くん」
 不意の声に海馬は無意識のうち、その方向へ視線を向けていた。教室の戸口には、クラスメイトとして見知った男が立っていた。
「ちょっといいかな?」
 男は控えめながらも海馬のいかなる態度にも屈しないと言う、自信を覗かせていた。
 海馬は眉根を寄せた。
 男は遊戯の身近でよく見る顔だ。昼食時一緒に教室を出て行く姿を見た事がある。しかし、遊戯の近くにいる者ほど話を聞いているのか、今まで声を掛けられる事などなかった。
 海馬は無視する事にした。今は二重人格についての論文をもう少し取り寄せ、物に魂が宿ったという事例とその検証を考察して、自分なりの答えを見つけたいと算段していた処だった。
 男は海馬の返答を必要とせず、そのまま席に近付いて来た。
「…ボク、知ってるよ。君と遊戯がしているゲームの事……」
「……ほう」
 海馬は男に顔を向ける。
「誰に聞いた?」
「否定しないんだね」
「認めてもいないがな。オレは自分と遊戯の妙な話に興味があるだけだ」
「そうやって君がボクと話をしている事が答えだよね。君がわざわざボクごときに時間を割いてくれてるんだから、ゲームは本当の話なんだ」
 海馬は男を睨んだ。大して知っている訳でもないが遊戯と一緒の時、この男はこんな表情をしていただろうか。もっとも相手によって態度を変える事は当然だ。この男は今、海馬を脅そうとしているのだから。
「……何が目的だ」
「君と取引がしたい」
 男は海馬の返答もある程度計算に入れていたのだろう。海馬の冷たい視線に晒されながらもその口調は淀みない。
「遊戯は城之内を君とのゲームに巻き込んで、妨害しようとしているよ。ボクは今日二人がその話をしている時、偶然聞いちゃったんだけどね。……君のゲームが上手く勝利で終わるように、協力したいんだ…」
「まさかタダ働きをする気はあるまい」
「……叶わないな」 
 男は苦笑いして望む物を声に出した。
 海馬は鼻で笑った。所詮は金かと。
 男が要求した金額は一介の高校生が遊びに欲しがる桁ではなかった。いくら海馬が大企業の「社長」であっても、会社の金を自由に使える訳ではない。海馬が個人の遊びを楽しむための口止めと協力に、金額を支払うにしても普通は請求する方も、もっと分をわきまえるだろう。
 余程顔の皮が厚いか、差し迫ってその金額が必要なのか、面白い事になりそうだと、海馬は男にどうとでも取れる微笑みを作った。
 悠然と構えていた男は、海馬の意味深な笑いに落ち着き無くソワソワし始める。
 この分なら海馬が遊戯と何を賭けているのかまでは知らないようだ。遊戯も城之内に、もう一人の遊戯が狙われているとは言い出せなかったに違いない。もし本当の事を知っていれば、城之内が作戦でも海馬を無視していられるはずがない。
 海馬は「ゲーム」の話が関係ない者に知れた事などどうでも良かった。むしろ今まで城之内にさえ秘密にしていた遊戯に、驚いたくらいだ。
「……貴様は遊戯や城之内の「お友達」ではないのか?」
 海馬は暗に金で友情を売る気かと問いかける。
 男は痛い所をつかれたのか作り物の表情が壊れた。
「友達にも色々あるんだ…。オレは金が欲しいんだよ。その金があればオレは、」
「報酬は結果が出てからだ」 
 海馬は話を遮った。いかなる理由があろうと、友達面で傍にいながら遊戯を騙す気でいる男には、虫酸が走るだけだった。
「オレと遊戯の「ゲーム」が終わるまでの間、目障りな犬を学校の中から排除しろ。但し、遊戯には手を出すな。オレの手を煩わせず犬を消せたら、金をくれてやる」
 海馬の威圧的な態度に男は嫌と言える訳がない。もはやそこにいるのは主人と下僕だった。
「明日から「ゲーム」最終日まで十五日、貴様が欲しい金額を割り振ってやる。早く犬が学校へ来なくなれば受け取りが多くなる出来高払いだ。やり甲斐があるだろう?」
 男は頷くと足早に教室を出て行った。
 


 海馬は男の気配が完全に無くなったのを確認してから、携帯を取り出した。メモリーで一番重宝している部下を呼び出す。海馬は男の名字しか知らないがそれで十分だった。
「オレと同じクラスの――を調べろ」
 用件のみで通話を切る。磯野にはそれで通じるからだ。
 海馬はクラスの者などに時間を使わない主義だが、あの男は既に己の手駒だ。使える物を無駄なく使う為には、男の素性や家庭事情など調べておいて損はない。
 海馬は頭を押さえた。頭痛よりも怒りの為に血が沸き立ち、眠気も吹き飛んでいた。
 海馬の怒りの対象はあの男ではなく、遊戯だった。
 遊戯が城之内に「ゲーム」の話をする時、もっと周りに気を付けていれば、誰にも聞かれる事は無かっただろう。あの男を友達だと信じているもう一人の遊戯は、真実を知った時傷つくに違いない。遊戯は「友情」や「友達」に、海馬が理解しがたいほどの価値観を持っているのだから。
 海馬が遊戯の「友達になりたい」という気持ちを拒むのには、確固たる信念がある。しかも海馬は遊戯の「友達」ではなく「恋人」になりたいのだ。最初から主張を明らかにしている海馬からすれば、上辺だけいい顔をして繋がっている関係など唾棄すべき物だった。
 海馬はこれからの予定を組み換える。遊戯が城之内とタッグを組んで立ちはだかるのなら、粉砕するまでだ。期せずして遊戯の身近な者が使えることになった。あの男は働きを見つつジョーカーとして取っておけばいい。
 海馬は傲慢な顔で立ち去った遊戯を思い出す。あの遊戯にはデュエルで勝利した事はない。しかし、負ける気はしなかった。



 手元の時計の針が深夜一時過ぎを指しているのに気付き、海馬は机上の書類を簡単に寄せて仕事の終わりとした。昨夜病院に駆け込んできたモクバに、忙しくとも睡眠時間をきちんと取るよう、涙ながらに約束させられたからだ。
 海馬は社長室の隣にあるプライベートルームに入り、洋服のままベッドに倒れ込む。どうせ五時前には起きてシャワーを浴びるのだ。着替えるのはおっくうだった。



「……おのれ」
 就寝用の薄明かりの中、海馬は呻き声をあげる。身も心も疲れているというのに、睡魔は一向に襲ってこない。しかも今、海馬の脳裏を占めていたのは、淫らな妄想だった。
 闇の中に遊戯たちの姿があった。二人の遊戯が同時に存在するという、あり得ない光景――。


 二人は恋人同士のように寄り添い、何度もキスをした。
 軽い啄みから徐々に深く交わされる口づけの合間に、彼は遊戯の服を脱がしていく。暗い世界に遊戯の肌が一層白く浮き上がる。
 胸を飾る彩りは彼の愛撫を期待して、小さいながらも自己主張する。彼は頬を緩めながら口に含んだ。
「あっ……ん…」
 荒く息を継ぎながら、遊戯は彼の頭を抱え込む。
 遊戯が遊戯に悦楽を与えていく光景は、まるで映画を見せられているかのようだった。
「もう…一人のボク……」
 甘く掠れた遊戯の声が、愛おしそうに相手の男へ呼びかける。
 海馬は胸に鋭い痛みを覚えた。
「ね……ボクにも……ほら……君の、もうこんなに固くなってる……」
 遊戯は恥じらいながらも、伸ばした手を彼のパジャマの中へ滑り込ませる。遊戯が小さな手で握り込むと、彼は熱いため息を吐いた。
 彼は遊戯の後頭部へ手を回し催促する。
「相棒……」
「……うん」
 遊戯はゆっくり彼の股間へ顔を沈めた。
 取り出した滾りの先端に唇を寄せ、圧力をかけながら口に含むと、それはビクリと震えてより固くなった。
「はっ…あ、相棒……」
 遊戯の頭が上下するたび彼の息は乱れ、取り澄ました顔が悩ましい表情に変わる。相手を射竦める眼力を持つ目元は、うっすらと赤みが差し、やがて閉じられた。
 海馬は握り拳に力を込める。手の平の皮膚が破れて流血しそうな痛みが、辛うじて理性を保たせた。
――これは夢だ……。
 声にならない言葉で己に言い聞かせる。いつの間にか妄想から眠りに就き、夢の中にいるとしか思えない。
 遊戯の小さな唇と可愛らしい舌が、猛々しい塊へ奉仕する様子は、目眩が起こりそうなほど扇情的だった。その慣れた仕草や指先の動きは、とても一日や二日程度で身に付くモノではない。そうなるまでどれほどの時間を、費やし覚え込まされたのだろう。
 海馬は思わず我が身の記憶と照らし合わせ、暗澹たる思いに囚われた。
 だが、海馬を真に打ちのめしたのは、遊戯の恍惚とした表情だった。上気した肌に潤んだ眼差しの遊戯は、彼がもういいと促しても、未練がましく指を絡め男の欲望を更に煽っていく。
「……オレのを舐めてるうちに感じた?」
「……う、ん」
 遊戯はからかいを含んだ彼の言葉に、赤くなりながらも素直に答えた。
 ご褒美だと言わんばかりのタイミングで、彼の指が遊戯の屹立した欲望を扱きあげる。
「あ…んぅ…」
 遊戯は彼の手の動きに合わせて腰を揺らめかす。
「こっちも……熱くなってるぜ」
「あっ、あ……っ」
 彼の指が遊戯の滾りの雫を借りて、奥の蕾へ忍び込む。くちりと小さな音がして、指は容易く飲み込まれた。
「…はぁ……」
 遊戯は彼に縋り付き、愛撫を享受しようと足を大きく広げた。そこに羞恥の躊躇いはなく、貪欲に彼を求める事こそが愛情の証と言わんばかりだ。
 彼は遊戯の額や頬にキスを落としながら、解す指を増やしていく。
「は、やく、入れて……」
 遊戯は優しい愛撫に焦れて、腰を擦りつける。彼は困ったように微笑んだ。
「ちゃんと慣らさないと、辛いぜ」
「いい、から…。君を……もっと、感じたい」
 荒い息の合間に男を強請る遊戯の姿に、海馬の中心が切ない望みで疼く。
――それはオレのモノだ!
 海馬は二人を引き剥がしたい衝動に駆られた。しかし、足はおろか身動きさえ出来ない。大声で二人の邪魔をする事も、これ以上見たくないと目を逸らす事もままならず、見守るしかないとは、耐え難い拷問だった。
「い…ッ」
 甘かった遊戯の喘ぎ声に、固い緊張が交じる。
 遊戯を俯せにして背後からのしかかった彼の眉間にも、深い皺が刻まれた。
 どれほど慣らそうと、入り口の少し先はきつくなる。
 そこをやり過ごし馴染ませていくと、小刻みに震え固くなっていた遊戯の身体が弛緩し、光り輝くような薄い汗が滲んだ。
 背後の彼がゆっくり動き出す。
 遊戯の大きな瞳は潤んで焦点が定まらなくなる。
「はっあ、あん、ん…」
 遊戯は揺さぶられるまま嬌声をあげた。
 一方、彼は快楽より苦痛を感じるのか、眉間の皺がとれなかった。ひたすら恐ろしいほど真剣に、遊戯の反応を確かめつつ腰を使い、空いた手で遊戯の弱い部分に刺激を与えていく。
「ひぃ…い、っ、あっあ…あ――…」
「ここ、だよな…」
「だ、め……やめてッ」
「感じるんだろ…」
「あっん、んん」
「……ほら、ここだ」
「ひ、あ――」
 彼の執拗な責めに、遊戯は息も絶え絶えに身を捩る。無意識に逃げようとする身体を押さえつけ、徐々に彼は動きを大きくしていった。
「あ、あん、も、一人のボク、もう一人のボクぅ……」
 もはや遊戯は一方的に与えられる快楽に浸りきり、喜びを与えてくれる相手の名を呼ぶ事しかできない。そうしてやっと、彼の眉間から険がとれ、遊戯と同じ恍惚の表情に満たされた。
「相棒…あ、いぼう」
「ん、もう、ひとりの…ボク……」
 二人は何度も互いを呼び合い、最後の瞬間に向けて駆け上る。
 どれほどの時間が経ったのか、あるいは一瞬だったのかも分からない。海馬は既に嫉妬の感情も起こらず、二人の成り行きを見つめていた。
 双子のようにそっくりで、そのくせ実は全く違う生き物だと主張する二つの身体は、重なり交じり合う事が自然の摂理とまで思わされた。
 やがて海馬は彼と目が合った。
「……これで分かっただろ?」
 彼はうっとり身を任せる遊戯を抱き寄せ、閉じられた目元に唇を押し当てる。
「相棒は、オレのモノだ……」
 彼は勝ち誇ると、シニカルに片方の口の端を吊り上げた。



 目覚ましの電子音に、海馬は重い身体を動かした。泥沼に沈んでいたような疲れで思考が停止する。
 痛みを感じ目をやると、両手の平に握りしめたと思しき爪の後が残っていた。
 じわじわと夢の内容を思い出す。絡み合う遊戯たちの光景は妙にリアルで、海馬は暫く目頭を押さえた。
「……夢の中にまで現れおって……」
 あんな夢を見てしまったのは、海馬が思うより昼間の話にショックを受けていたせいかも知れない。
 たかが夢。現実には起こりえないただの夢。そう理屈では分かっても感情では割り切れない。
 海馬は寝皺の付いた服を脱ぎ散らかしながら、乱暴にシャワールームのドアを開けた。
「……然るべき報いを与えてやる…」


      

■あんまりエロくはないのですが、一応やってるシーンがあるのでタイトル色を変えてみたり…。