犬のきもち



「10代目は犬の交尾がどんな具合か知ってますか?」
 オレは犬は好きだけど犬の交尾についてはよく知らない。興味が全くない訳でもないけど、今は犬のことより自分のことでいっぱいいっぱいだからそれどころじゃないというのが本音。
 つうか、なんでこんな時にそんな話するのかなこの人。



 今日は学校からの帰りに獄寺君ちによった。リボーンはビアンキとデートでいないって分かってたし、明日は休みだから遅くなってもいいや、いっそ泊まることにして、あとでパジャマとか取りに戻っても――なんて考えてた。
 一応帰りながらの話では、まず学校で出た宿題を片づけて、その頃には良い時間だろうから、ごはんを食べて映画のDVDとかゆっくり観ようなんて計画だったのに、獄寺君ちの玄関に入った所で抱きしめられてキスされた。
 最初はちゅっちゅって軽く合わせるぐらいだったからまぁいいやって許してたら、すぐに舌を入れられて口の中をなめ回された。
 その頃にはオレはもうカバンとか持ってる場合じゃなくて、荷物を上がり口のろうかに放り出し夢中で獄寺君にすがりついてた。
 だって獄寺君はキスが上手い。
 訂正。上手いと思う。すっごく気持ちいいから。オレ、獄寺君以外とキスなんかしたことないから比べられないんだけど。
 獄寺君の舌はオレと違って長いし先が尖ってる。それでオレのほっぺたの内側とかはぐきとか舌の付け根とかいろんなとこ探られて、舌を絡ませてきたり吸われたり甘噛みされたり湧いてきた唾液をすすられたりして、くちゅくちゅいやらしい音を立てられたりしてると、もう息は苦しいし頭はクラクラするし頭の中も胸も獄寺君で一杯になって、体が熱くてムズムズしてたまらない気分になるんだ。
「すみませんがっついて」
 長いキスのあと、獄寺君は何度もオレの唇をついばんで、謝りながらオレの熱くなった耳をかじった。
 ちょ、それぜんぜん謝罪の態度じゃないから。
 心では突っ込めたのにオレの口から出たのはエッチいため息で、キスだけでそれ以上を期待してしまう体が浅ましくて恥ずかしかった。
 獄寺君はオレを抱きしめた姿勢のままオレを上に持ち上げた。大きな大根とか抱えて引っこ抜くみたいな感じで。そのままもどかしげにスニーカーを脱いでろうかを歩き出す。
 獄寺君て確かにオレより体は大きいけど、だからってすごくたくましいって感じでもないのにこんな時オレを軽々と運ぶんだ。すごいよなぁかっこいいなぁなんてぼんやりしてたら忘れてた。
「クツ、くつ! オレまだ脱いでないよ!」
 じたばた暴れてみたら、獄寺君はしぶしぶって感じでまた玄関に戻り、オレを降ろしてくれた。オレは足をすり合わせてスニーカーを脱ぐ。手を使えばすぐなのに獄寺君がオレの体を抱きしめたまま離してくれないのでそうするしかなかった。
 くつ下がイヤな感じで脱げかけたけどどうにか足を引っこ抜く。するとすぐに抱き上げられた。
「……いいスか?」
 獄寺君の主語のない問いかけに、オレはただこくんとうなずいた。さっきから獄寺君のあそこはオレに当たってたし、オレも胸がバクバクしてうずく体をどうにかして欲しいって思ってた。
 そのまま寝室まで運ばれてベッドに寝かされたら、すぐに獄寺君がのしかかってきた。オレは慌てて獄寺君の身体を押しのけて身を起こす。
「ふく、脱がなきゃ」
 前に制服のままやっちゃって、しわしわのドロドロになって大変だったことがあるんだ。あの時は獄寺君ちから帰る前に雨がふって、わざと濡れて帰ってごまかしたけど風邪を引いた。私服なら獄寺君に脱がされながらエッチするのってなんだか恥ずかしくて、でもそれが気持ちよかったりしていいんだけど、とにかく制服の時だけはちゃんと脱いでおかないとダメなんだ。母さんに変に思われたらやっぱり恥ずかしいというか、獄寺君とのことは秘密だし、とにかく知られたくない。
 自分で脱ぎ始めたのはいいけど、焦ってるせいか手が上手く動かない。オレがもたもたしてる間に獄寺君は自分の制服を勢いよく脱ぎ捨てて全裸になった。両手からリングを抜いてリストバンドを外して、さらにネックレスも外していく。その動作はメチャメチャ速くてカッコいい。なんで見た目がカッコいい人ってなにしてもさまになるんだろう。オレが見ほれてる間のことだったから、当然オレはまだシャツのボタンを外してる途中。用意が終わった獄寺君が「失礼します」って断るからなにかと思ったら、オレのベルトに手をのばして脱がし始めた。
「わっ!」
 ズボンを引っ張られてベッドの中でひっくり返ったオレの下半身から、獄寺君はなんなく服を取り去った。自分の制服は乱暴に脱ぎちらかしたのに、オレの制服は簡単にだけどシワが出来にくいようにたたんでベッドの下に降ろす。
 獄寺君のあれはもうすごいたっちゃって今にも襲いかかられそうな感じなのに、オレの服に気を遣って丁寧な動作をしてるのが獄寺君らしいと言うか、おかしいけどかわいかった。
 オレがどうにかシャツのボタンを外し終わる頃には獄寺君にくつ下も脱がされて、オレのシャツを受け取った獄寺君はやっぱりちゃっちゃとたたんでさっき置いたズボンの上に降ろした。
 お互い準備万端ってなるとなんだか恥ずかしくなった。ちびちび脱がされるのもいやらしい感じなんだけど、こうも短時間で脱いじゃうとそんなにやる気満々かって、いや、確かにやる気いっぱいなんだけど、まだ明るいうちからすっぽんぽんって普通ではあり得ないわけで。
 あと、さっきから気付いてるけど、獄寺君のあれが大変なことになってて目がクギ付けなんだ。オレとは違っていかにもペニスって形だし、先走りの体液があふれてサオのとこに伝ってて、あれがオレの中で動いて気持ちよくしてくれるんだって思ったらゾクゾクして身体がうずいた。思わずごくってツバを飲み込んだらその音が部屋に響いたかと思うくらい大きく聞こえてちょっとびびる。
「10代目」
「あっ、ん……」
 獄寺君に抱きよせられて唇をむさぼられる。裸で抱きつくとお互いの胸の鼓動がすぐ伝わり合ってすごいドキドキした。ちょっと汗ばんだ肌がぺたぺたするのがエッチい感じで、抱きあってキスしてるだけでオレの股間も熱くなってくる。
「ん…んう…」
 キスされながら身体をなで回されて、くすぐったさとそれ以外で身体がビクビクする。そのたびオレの身体は獄寺君から離れそうになるんだけど、獄寺君は逃がさないって感じで手の力をゆるめない。
 獄寺君の性器からこぼれた液体がオレのほてった身体に付くたび冷やっこい。オレのもぬるついてるから獄寺君も同じように感じてるのかな?
 ああ……獄寺君のキスはなにでこんなに気持ちいいんだろう……。
 酸欠なのか意識がぼうっとする。
 気が付いたらベッドの中に押し倒されてて、獄寺君の両手はオレのわき腹とか太ももの内側とか感じやすいとこばっかさわってきて、しかも獄寺君の口はオレの乳首をなめたりかんだり吸ったりしてたから、オレは「あっ、あん…やっ、ああ…んっ」って女の子みたいな高い声であえぐばっかりになる。
 それが恥ずかしくって少しでもガマンしようと両手で口を塞いだら、獄寺君がヌルヌルに立ち上がった乳首から唇を離して「我慢しないでもっと声出してください」って言った。その声はちょっとかすれてて、すげー色っぽかった。しかも獄寺君の目はぎらぎらしてて、あーオレ獄寺君に食われちゃってるんだって思ったらよけいゾクゾクした。さらに獄寺君がオレの股間をさわってくるから思わず声がもれて、必死で口をふさぎなおしたんだ。
「……そんなとこも可愛いっス」
 素直じゃないオレを見る獄寺君の口元はゆるんでた。なんでそんなに嬉しそうな顔するの? 君の方がよっぽど可愛いよ。オレも君にさわりたい。
 だけど、獄寺君はオレの胸に吸い付いてるから、手をのばしても獄寺君の上半身にしかとどかなくて。さらさらの髪とかそれにかくれてる耳とかのどとか肩とか、かき混ぜたりつまんだりなでたりしかできない。耳のうしろの生え際にさわったら、獄寺君がビクッとしてこっちを向いた。顔が真っ赤になってる。
「……いたずら、しないでください」
 いたずらじゃないし。獄寺君はそこが感じるって知ってるからさわったんだよ。オレだって君を気持ちよくしたい。
 オレの顔じっと見てるくせに獄寺君の手は動いてて、オレのぬれた乳首をつまんだりはじいたり引っ張ったりするから、その度オレは腰に重くて甘い刺激が伝って身体ははねるし息はとぎれとぎれになるしでめっちゃかっこ悪い。
「オレ、も…っ、ご…くでらくんにっ……さ、わ……りたいっ」
 たどたどしくなったせいで妙に甘ったれた声になったけど、ホントはこんな声出すのはイヤなんだ。それなのに獄寺君はととのってる顔をでれでれに崩すとオレのほほにちゅってして、「じゃあ遠慮なくさわってください」ってオレの右手をつかんで自分の性器に持って行った。
 うーん直球だ。
 オレはそれ以外の所も含めて獄寺君にさわりたかったんだけど。
 そこが一番気持ちいいってのは分かるし、オレが手に余るそれをやわやわにぎり込むと獄寺君の目が細まって、割れてる男らしい腹筋がビクッてしたり息が乱れたりするから、うれしくなっていっぱいさわった。
「じゅっ、う、だい……め」
「んっ……んん――」
 獄寺君が息をうばうようにして口付けを深くしてくる。しかも片手でオレの胸をいじりつつもう片方でオレの性器をしごいたりするから、一気に身体がふっとうするみたいになって足先までしびれた。
 あ――やばいイキそう。口の中も獄寺君がいじってくれてるところもぜんぶ気持ちいい。とろけるみたいな快楽が身体の奥からせり上がってきて、爆発しそうな体液と一緒に弾けさせたくなる。
 だけど、オレだけじゃイヤだ。
 獄寺君も、一緒に。一緒がムリでもなるべく同じくらいにしたいから、オレは浮きかける意識を引っ張った。まだ、もう少し、がまん……
「あっ…あ! ああ」
 目を閉じているのに視界が光り輝いて見える。キラキラしたとんでもなくきれいな世界が広がって、オレは身体ごとそこへ飛び立っているのか落ちているのか分かんなくなって……
 このままじゃホントにオレだけイっちゃうって、どうにか動かせた両手を夢中でにぎったりしごいたりしたら、
「あっ…っつ」
 オレの手にあったかくてドロッとしたのがあふれた。思わず目を開けると獄寺君の手がオレの手の上にかぶさって強くにぎりしめられたと思ったらそのまま何回かしごかされた。さいごまで出し切ったせいか結構な量が手を伝ってオレの身体にこぼれる。ぬるいしたたりがほてった肌に冷やっこいくらいだ。
 獄寺君の方が早くイっちゃうなんてスゴクめずらしい。
 オレがちょっとビックリして獄寺君の顔を見てたら、獄寺君はとたんに真っ赤になって視線をそらした。
「……ス…、イマセン……」
 荒い呼吸のあいまにちっちゃい声で謝られたけど、なにで謝るの? 気持ちよかったんだよね? いつもオレの方が早くてオレばっかり気持ちいいんじゃないかって思ったりするから、獄寺君が先に出してくれてオレはうれしい。
 でも、獄寺君は想定外っつーか恥ずかしいみたいで、イったばっかりでハアハアしてるのにティッシュでさっさと後始末したかと思ったら、オレのをぱくってくわえちゃった。
「あっ、そんなのっ、いいからっ」
 オレは手でしかやってないから、オレをイかせてくれるんなら手でいいのに。これじゃあ不公平だと思って逃げようとしたら、腰をがっちりつかまれちゃってムリだった。
「んっ――あっ……あ――」
 先っちょをなめ回されて強く吸われ、裏筋や袋をこすられたりやわやわもまれたら、オレはあっという間に出してしまった。さっきめちゃくちゃガマンしてたし、獄寺君の口が気持ちよすぎて。ホントは出したくなかったんだけど。だって獄寺君、口でしてくれたらぜったい飲んじゃうんだもん。
「はっ、あっ……あっ……ん」
 オレはぜいぜい息をしながらはねる身体を少しでも早く静めようと頑張ってみる。そんで獄寺君に飲まなくていいよって言いたかったんだけど、緊張がとけた身体は急に汗がふき出てだるいし上手く口がまわらない。
「ごッ……くん……じゃ、――め」
 オレが獄寺君にすがるように手をのばすと、獄寺君は顔を上げてうれしそうに笑った。
「10代目もたくさん出ましたね」
 あ――……やっぱり飲んじゃってるよ。
「ご……めん。オレ、ガマン、出来なくて」
 獄寺君はニコニコしながらオレの隣へよこになると、オレの髪をなでたりおでこやほほに軽くチューしてきた。
「オレもさっきガマン出来なかったから、お互いさまっスよ」
 ……いやそれ言葉の使い方変じゃない?
「……オレの愛撫に感じてくださってる10代目が可愛くて……、しかも我慢しようと頑張ってお腹とかぴくぴくしてるの見たら、もう、たまんなくなって――」
 こんどは軽く唇にチューされた。
「大好きです10代目。愛してます!」
「……うん。オレも大好き獄寺君」
 愛してるとはなんだか恥ずかしくて言えなかったけど、オレも君のことが好きだ。大好きだよ。気持ちよくしてくれてありがとう。
 まだだるくて動けないオレに、獄寺君はうれしそうな顔のままいっぱいキスしてくれた。
「あっ」
「す、すみませんっ」
 急にうしろへ指を入れられてビクッてしたら獄寺君があわてて謝ってきた。違うよ。痛かったわけでもイヤだからでもない。
 オレはそう言いたくてでもちょっとおっくうで、シワの付いた獄寺君の眉間にちゅって唇をよせた。
「いいんだよ。今日は……いっぱいしよ?」
 獄寺君がそれはそれはうれしそうに「はいっ!」って言うから、可愛すぎてオレはちょっと笑ってしまった。すなおで可愛い君が大好きだよ獄寺君。




 それからしばらくのあと、オレはひっそり後悔してた。なにをって、獄寺君に『いっぱいしよう』なんて言っちゃったことをだ。
 獄寺君はホントにいっぱいした。オレもしたかったし気持ちよかったしそれはいいんだけど、物事には限界というか程度ってあるんじゃないかと思うわけで――
「あっ……んぅ…は、ああ――もっ、む…り……」
 うつぶせにされた腰の下にクッションを入れられてのしかかられる。体勢的にはちょっと楽だけど三回目はさすがにしんどい。今日はめずらしく最初からゴム使ってないから、刺激があって気持ちよすぎてオレはへとへとだった。しかも獄寺君は入れてからが長いし、今までずっと入れられて揺さぶられて鳴かされて、あそこは熱もってはれてる気がするしのども痛い。
 ちょっと休みたいなぁって思ってたら、獄寺君の硬くなってたあれがゆっくり入ってきた。なんでこんなに体力あるんだろう。
「うっ……ん」
 内蔵が出てきそうな圧迫感。オレはなるべく身体から力を抜いて受け入れる。オレの中をいっぱいに押し広げて入ってくる獄寺君のあれは、何回も出してるのに相変わらず大きい。
 全部入れ終わると獄寺君は一息ついて、うしろからオレの首や耳をチュッてしたり強ばった肩や背中や腰をマッサージするようになでてきた。そうされると獄寺君の手からいたわり成分が出てるのか、だるいのとか痛いのが少なくなるんだ。オレをその気にさせようってエッチな感じがないからかも知れない。暖かい布団の中で眠ってるときに優しく頭をなでられてるような……。あ――目を閉じてじっとしてると苦しいのもマシになって、なんだか眠たくなってきた。
 だけど、獄寺君がゆっくり動き出したから、うとうとしそうだったのはどっかに行っちゃった。いったん引いてた身体の熱が燃えだして、うすく汗が浮いてくる。
「あっ……ん……」
「……大丈夫、ですか?」
「ん? うん……。へいき、だよ……」
 オレの背後であらい息を詰めながら獄寺君が聞いてくる。きっとオレの身体に負担をかけないよう自制してるんだ。オレにはこのくらいゆっくりでかき混ぜられるようなのも体中がとけて浮いちゃうみたいになっていいけど、獄寺君には物足りないんじゃないかな。
 でも、さっきまでみたいに激しいのはホントもうギブだから、オレは目をとじて身をまかせてた。すると獄寺君は投げ出してたオレの手を恋人つなぎにして、オレの背中に密着する感じで首筋にキスしてきた。
 なんだかオレ、すごく大事にされてる気がする。いや、じっさい獄寺君はオレを大事にしてくれてるけど。こんなふうに優しくされるとキュンと来る。ガツガツしてる獄寺君もかわいいし遠慮しないでくれてるのもうれしいけど、やっぱりオレは優しい獄寺君が好きだ。
「10代目……」
 オレを呼んでくれる獄寺君の声。いつもより甘い。。
 オレは身体も心もとけそうに、最高にうっとりしたんだけれど。
「10代目は犬の交尾がどんな具合か知ってますか?」
「……は?」
 オレは一瞬で甘ったるい気分が吹っ飛んだ。こんな時になに言ってんだこの人。
「……知らないけど」
「オス犬の性器は、……メスと、交尾して、射精、すると、根元が、膨らんで、メスの、膣から、ぬけなく、なるんです」
 獄寺君は普段のようにしゃべろうとしてたけど、息がつづかなくてすごくとぎれとぎれになってた。それは激しく動きたいのにガマンしてるからだって分かるのに、なんだかオレには犬の交尾を想像して興奮してるようにも思えた。……それって変態じゃん! ええ? 獄寺君ってそんな嗜好があったのか?
「……抜けないと、大変なんじゃ、ないの?」
 オレは頭ん中がぐるぐるし始めたけど、取りあえず気になったことを聞いてみた。
「オスが、射精し終わって、っ……、大体、5分から、20分ぐらい、かかるらしいんスけどっ、……そしたら、ぬける、らしいっス」
「あっ、あっ……んっ」
 獄寺君がちょっと乱暴に抜きさしした。とたんに粘ついた恥ずかしい水音がして、オレはきゅうっと獄寺君のそれをしめ付けてしまう。オレの中には獄寺君が出したものがいっぱいで、ちょっとくらい乱暴に動かれても痛くはないけど、こんな話をされながら動かれるのはなんかイヤだ。
「物理的に、ぬけないなら、……ほかのオスが乱入しようとしても、無駄でしょう? なんか……すげえっスよね……」
「やっ、あっ、ああっ」
 すごいのは君だよ獄寺君。まさかホントに犬の交尾で興奮してるんじゃないの!? 犬の話を始めてから獄寺君のアレがオレの中で大きくなった感じがして、オレは恥ずかしくてそこに力が入ってしまった。
「あっ、じゅ……だいめっ、かわいいっす」
「やっ、あっ、あっ、んっ」
 ますます獄寺君の息が荒くなっていっぱい動いたから、オレもつられて犬の話の引っかかりを残したままイってしまった。




「……10代目……なにかご不満でも…?」
 獄寺君がおずおずとした口調で聞いてくる。わあ。この人オレの不機嫌に心当たりがないんだ。ある意味すごいな。
 オレがイっちゃったあと、獄寺君もすぐ出した気がする。オレは疲れてたからよく覚えてないんだけど、獄寺君はオレをお風呂に入れてくれたらしい。気付いたらパジャマ姿でソファーに寝てたんだよね。そんで獄寺君が作ってくれたごはん食べたりしたけど、獄寺君は「調子にのって無理させてしまってすみません」とか「今日のスパゲティー茹ですぎましたかね」とかオレが気にしてないことはあれこれ謝ったりしたのに、肝心なことはなにも言わなかった。なんなんだろうこの人。
「オレが怒ってるって分かってるのに、原因は分からないの?」
「……はあ……すいません」
 ソファーに座ってるオレの前で、フローリングの床にちょこんと正座してうなだれてる獄寺君は、いたずらをしかられてるワンコみたいでかわいい。だからって許そうとは思わないけどね。
「なんでエッチの時に犬の話したの」
「それは――」
 獄寺君はそわそわ落ち着きをなくしたかと思うと耳を赤くして下を向いた。
「あ、あの、オレ、三回目だし、10代目のご負担にならないようにと思ってたんスけど、10代目が安心して身を任せてくださってるお姿とか見てたら、かわいいなあうれしいなあって……自分の中で盛り上がりすぎてムラムラして、すぐ出しそうだったんでなにか気を紛らす話でもと……」
「だからってなんでそれが犬の交尾についてなんだよ」
 オレが声をちょっと大きくしたら、獄寺君はますます身体を小さくした。気を紛らわせるためにってのは分からないでもないけど、でも、そんなときはフツー難しい数学の公式だとか、エッチとは関係ないジャンルにするもんじゃないの?
 それをよりによって犬の交尾。ほんとよく分かんないこの人。
「犬の話はちょっと前に本で読んで、雑学っつーか、なにかの話のついでに10代目にお話しようと。10代目のご意見を伺いたかったものですから、こう何というか、渡りに船っつーか、むしろ今しかないっつーか、テンパってましたごめんなさい……」
 オレはだんだん怒りの塊が見えなくなってきた。けっきょく獄寺君は悪気がないし、獄寺君がオレが思うより余裕がなくて頑張ってたゆえの結果なんじゃ、しょうがないなあって。
「もうエッチの時にあんな話しないでね。オレ、獄寺君が犬の交尾話で興奮してんじゃないかとか、もしかしてオレに飽きちゃってマンネリ防止なのかとか、いろいろ考えちゃったよ」
「すすすすみません! 飽きたりなんかしてません! オレは毎日年中10代目に飢えてるんです。今日は10代目がたくさんしてもいいと仰ってくださったのでつい調子に乗ってすみません!」
 獄寺君はぺこぺこ頭を下げながら弁解した。黙ってじっとしてれば文句なしにカッコイイのに、こんな時の獄寺君はこっけいを通り越してかわいそうになってくる。だからオレも反省した。獄寺君を変態だなんて疑ったこととかいろいろ。
 仲直りをして獄寺君と同じソファーでのんびりTVを観てたら、オレを恋人座りで抱っこしてた獄寺君がまた話を振ってきた。
「オレ、犬の交尾の件で10代目に質問があるんです」
「……そう言えばさっきもそんなこといってたね。……なに?」
「犬のオスが射精してる時間て長いっスよねえ」
「そうだね」
「その間、オスは当然気持ちいいだろうって同じ男として想像はつくんですけど」
 なんだかイヤな方向に話が向かう予感がしたので、オレはわざと返事をしなかったんだけれど、獄寺君はオレをぎゅうって抱きしめてしゃべってた。
「メスはどんな気持ちなんでしょうね? そんな長い間乗っかられて出されっぱなしなんでしょ」
「……どんな気持ちって、オレに犬の気持ちが分かるわけないじゃん」
「はあ。もちろん10代目は人間ですし、お分かりにならないのが当然なんすけど、……その、オレが10代目の中に出してる時間が長く続いた場合と仮定したら、ちょっと近いのではと思いまして」
「……じゃあ、オレはメス犬ってこと? へえ、獄寺君そんなこと考えてたんだ」
 オレの声はとっても冷たかったと思う。とたんに獄寺君はとんでもないですとかそんなつもりじゃないんですとマシンガンみたいに謝罪を始めた。
 なんだかなあ。
 獄寺君は自分のことをよく山本とかに「犬に似てる」とか「ツナのワンコだな」なんてからかわれて怒ったりしてたのに、実は内心犬っぽいのを恥ずかしいとかかっこ悪いだなんて思ってないんだろうな。
 だから似てるって言われる犬に親近感もっちゃったのかな。確かに獄寺君は犬っぽいと思うことはあるけど、オレは犬っぽくはないと思う。
 オレはムカムカしながらもちょっとだけ考えてみた。獄寺君がオレの中で達する時の感触は、気持ちもいいけど、うれしいって感じの方が強い。
 獄寺君のアレが大きくなってブルブルってして、あったかいのがいっぱいになる。獄寺君が気持ちよくて、オレとセックスするのがよくって出しちゃうんだから、オレは、オレも獄寺君が好きだよって、幸せな気分になるんだ。
 それが5分から20分近くも続くわけ? 犬ってスゴイな。つうか、そんなに長いあいだ出しっぱなしになる犬のオスってなんなんだ。ホントに地球の生物なの?
 オレがあれこれ考えてるあいだ、反応のないオレに獄寺君は絶望したらしかった。
「すみません10代目……オレ……死にます」
「はあ? どこ行くの獄寺君!」
 オレは慌てて、ふらふらベランダの方へ行こうとする獄寺君を引き止めた。
「愛する10代目を貶めるような質問したオレは責任とって死にます」
「そんな、死んで責任とってもらうほどのことじゃないし!」
 半泣きの獄寺君を説得するのは大変だった。だけどこんなしょうもない理由で自殺されたくない。困るし、イヤだ。
 獄寺君がいなくなっちゃったらオレ生きていけないもん。
 だから自殺をあきらめたものの、未だ「10代目に失礼なこと聞いてすみません」ってぐすぐすやってる獄寺君に、オレは言ったんだ。
「メス犬の気持ちは分からないけど、動物だって、好きな相手じゃないと交尾しないよね? よく絶滅保護種とかいって、残り少ないオスとメスをお見合いさせて繁殖しようとしても、お互いがその気にならないと上手くいかないだろ。人間がどんなに「お前たち交尾しないと絶滅するんだぞ」ってセッティングしたって、知ったこっちゃないわけだよね」
「……はい、そうですね」
 獄寺君が涙をふいて鼻声でうなずいた。
「だからさ、長い間オスに乗っかられて射精されても、メス犬はそのオス犬を好きで交尾したんだから――うれしいんじゃない? 人間じゃなくたって好きな相手とするんなら、関係ない奴が大変そうとか思っても余計なお世話だよ」
「……さすが10代目です。犬どころか、生物全ての繁殖における真理を垣間見た気がします」
「いや、シンリとかどーでもいいから」
 やたら目をキラキラさせた獄寺君にちょっと引きつつ、オレは自分で言ったことに納得したんだ。
 オレも獄寺君じゃないとイヤだ。獄寺君以外とはエッチなんてしたくない。オレたちは繁殖出来ないし、世間体とか、間違ってるって言う人だってきっといっぱいいるだろう。だけどそんなのどうでもいいよ。
「オレは獄寺君が好きだ」
「おおおおオレもです10代目っ! 愛してます!」
 獄寺君は感きわまったって感じでオレをぎゅっと抱きしめてくれた。だからオレもぎゅってした。
 黙ってればかっこよくて頭がよくて優しくて、でも思いこみが激しくてダメダメなとこも多い獄寺君。
 犬の気持ちなんて分からない。
 だけど、ワンコみたいな獄寺君はかわいい。時々よく分かんないけど、大好きだ!


END






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