放課後遊戯 見本 

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■獄寺×綱吉「放課後遊戯」イントロ

 放課後の教室でセックスしてみたいと言い出したのはどちらだったのだろう。日にちでいればほんの一週間ほど昔に交わした会話なのに記憶が曖昧なのは、結局二人が同じような気持ちだったからに違いない。
 つまらない誤解から何ヶ月もすれ違った恋人たちは、仲直りをしてからとうぜん毎日ラブラブいちゃいちゃした。それまでお互いあまりに我慢しすぎていたせいか、手をつないだり抱きしめあったり、ささいなふれあいでも脳内では花火が打ち上げられパレード状態だった。
 しかし、失われていた時間を取り戻すべくくっついていると、二人は次第に物足りなさを感じ始めた。それは要するに幸福の飽和状態が膨大すぎて、ケンカ中のあいだに小さくなってしまった幸せの壺がお互いのキャパシティを超えてしまっただけなのだけれど、二人はそれを倦怠期なのではと疑ってしまった。
 ラブラブ蜜月まっさいちゅうな恋人同士がお互いの存在に飽きているなどあり得ない、許されないことだと、(実際二人はリボーンが吐き気をもよおすほどに熱愛中)二人は心底あわてて打開策を考えた。行き着いたのが「マンネリ防止に場所を変える」で、バカップル故に思考がシンクロして放課後の教室なのだ。
 もっとも、そこに落ち着いたのはちゃんとした理由がある。
 ケンカ中、暴走した獄寺が勢いあまって綱吉を押し倒しレイプまがいに行為を続けた一件が、二人の中ではたいそうエロいシチュエーションとして記憶に刻まれてしまっていたからだ。中学三年生の夏からの恋人関係ながら、二人は手を握ったりキスするだけで満足するような時期が長かったし、獄寺の部屋の中だけで秘められていた行為を外でするだなんて、しかもそれが学校の教室でふだん綱吉に絶対服従の獄寺が強引に――だなんて、あり得ない、起こりえない、一大事だったのだ。
 綱吉はいつでも優しい獄寺が好きで行為にも満足していたけれど、ときどき遠慮されているようなもどかしさを感じていた。といって、自分からああしてこうしてとリクエストするのは恥ずかしかったし、積極的に振る舞うと軽蔑されたり嫌われたりしないだろうかという不安があった。
 獄寺は綱吉に注意して触れながら、妄想の中では己の欲求を満たすためだけの勝手な振る舞いに興奮しては自己嫌悪に陥るという、相手が好きだからこそ口に出すのをためらってしまう、微妙な間合いが常に存在していた。
 そんな悩みも和解以降はお互い少しずつ話し合うことが出来て、放課後の教室でしてみようと相成った。
 しかし、以前は運良く誰にも見つからずに終わったが、放課後といえど学校はいつなんどき他人が現れるか分からない。秋からはイタリアに渡るにしても、情事の最中を他人に知られたら、二度と並盛に戻れなくなる。
 獄寺は「準備に一週間ほど頂きます」と張り切っていたので、綱吉は丸投げした。どうせ綱吉が手伝ったところで足を引っ張るだけなので。



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■隼人×ツナ前提、隼人×綱吉「IF〜もう一つの出会い〜」イントロ
 喧嘩の発端は些細なことだった。今まで何度も繰り返してきた、本当に些細な言い争い。


  ■1

 隼人が気がついた時、部屋の中は真っ暗でカーテンの隙間から街灯の灯りがきらめいていた。
「っつ……う」
 フローリングの床で眠っていたせいか身体の節々が軋む。同時に顎の辺りに覚えのない痛みを感じ手を当てると、腫れて熱を持っていた。
「……んだ…これ」
 何故自分が床で眠っていたのか、殴られたかのような外傷を負っているのか、隼人は座り込んだまま記憶を辿る。
「っ十代目っ!」
 思い出した瞬間に飛び上がった隼人は暗い部屋の中を見回し、舌打ちをして灯りをつける。視界がまぶしくて目を細めながらベッドの上や周辺を探してみるが、目当ての物は見つからない。
「まさかそのまま――」
 姿ばかりか鞄や制服が見あたらないところを見るに、あるじは家に帰ったらしい。隼人は呆然と立ちつくし我に返ると、部屋着からジーンズとTシャツに着替えて財布を引っ掴み、部屋を飛び出した。
 街灯のもと住宅街を走りながら、財布ではなく携帯電話を持ってくるべきだったととっさの判断が鈍っている己を罵る。
「……じゅうだい、めっ」
 どれ程後悔しても最愛の人はいなくなってしまった。
 隼人は涙でにじんだ視界を拭って走り続ける。


 沢田家に着いた隼人はインターフォンを押し、反応がもらえる前に堪えきれなくなってノブに手をかける。普段から人の出入りが多い家のせいか鍵はかかっていなかった。
「おじゃましますっ」
 断りながら玄関へ入ると、エプロン姿の奈々がちょうどリビングから姿を覗かせる。
「あらいらっしゃい獄寺君。ツナ、ワガママ言って獄寺君を困らせたりしてない? いつも仲良くしてくれてありがとうね」
「あああああのっ、お母様っ、十代目は――」
「ツナならお前の家で合宿中だろうが。寝ぼけてんのか」
 いつの間に現れたのか、リボーンが奈々の足下で隼人を睨みつけていた。
「えっ、あっ、そ、そそそそのことでリボーンさんにちょっとお話がっ」
 とっさに空気を読んだ隼人の判断は正解だったらしい。奈々は「じゃああとでお茶もってくからゆっくりしていってね」とにこやかに笑ってキッチンへ姿を消した。
 リボーンに顎をしゃくられ指示される。隼人は促されるまま階段をあがった。
「アホ牛に聞いても要領を得ないから、一応ママンにはお前の家で合宿中と言っておいたが、ツナはどこに行ったんだ」
「……十代目は、多分……別世界に行かれたんだと思います。今日、ちょっと……ケンカになりまして……その時に、別世界に行くと仰ってたので……」
 ローテーブルに仁王立ちしたリボーンを見る勇気などなく、隼人は床に正座してうなだれる。
「別世界に何の用がある。誰に、会うつもりなんだ」
 リボーンの声の冷たさに、隼人は身をすくめた。読心術の使える家庭教師がわざわざ問うのは、誤魔化しを許す気はないと暗に言っているのだ。
「十代目は、昔会った大人のオレに会いに行くと……」
「お前は部下失格だ。守るべきボスをむざむざ危険な目に遭わせてどうする。異次元バズーカの特性上、以前と同じ場所に着くことはないと知ってるだろう。たまたま一度安全に戻れたからと言って、もう一度無事に帰ってくるか分からねえんだぞ」
 隼人はいっそう俯き、身を縮める。


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□20081028 up