君の初めてオレにくれない? 見本 

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■イントロ

 ■1

「じゃあオレ、これで失礼しますね」
「あっ、獄寺君」
 ツナは帰ろうとする獄寺の腕をとっさに引き止め、慌てて離した。
「ごめん何でもない。気をつけてね」
「はいっ」
 獄寺は一瞬怪訝な表情になったが、ツナが笑顔を作るとつられたようににっこり笑ってよい子のお返事をした。
 学校からの帰り、獄寺はいつもツナを家まで送ってくれる。獄寺にしてみればそれは最初から部下として当然の行動だったのだろうけれど、元々ツナは護衛という意味では獄寺の存在を求めていなかったし、恋人同士になった今ではむしろツナが獄寺を家まで送りたいくらいの気分なのだ。もちろん『とんでもないっス』と即座に断られてしまい、いつもと同じように今日も家まで送られて帰ってきたわけだが。
「……今日もダメだった」
 ツナは自宅のドアを開ける前に深々とため息をついた。
 獄寺を家までエスコートするという夢は諦めている。それよりも、切実に叶えたいことを、ツナは獄寺と付き合いだしてもう十日は経とうかというのに未だ実行出来ないでいた。
 今日の帰り道はいくつもチャンスがあった。いつもと違う裏道を通った時はひとけがなくて、何度も何度も妄想の中で繰り返した行動を取れるチャンスはいくらでもあったのに――
 ツナはドアのノブにかけた手をいったん離し、己の手を見つめる。先ほども腕なら簡単にさわれたのに、ターゲットがそれより下の場所だと思うとそれだけで手のひらが湿ってくる。
(オレ……いつになったら獄寺君の手を握れるんだろう……)
 順調に滑り出したはずのツナの恋は、ちっちゃな問題で行き詰まっていた。

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□20110104 up